早いもので、今年も残るはあと数日となってしまいました。北京五輪をはじめ、今年はスポーツに沸いた1年でしたね。野球界でも様々な出来事がありました。埼玉西武の日本一や万年最下位だったレイズのワールドシリーズ初出場、さらには新日本石油ENEOSの田澤純一投手がドラフト指名を回避してまでのメジャー挑戦を表明しました。そのメジャーへの道を切り拓いた野茂英雄、日本球界を代表とするスラッガー清原和博が現役生活に別れを告げたのも記憶に新しいことでしょう。
 果たして2009年はどんな1年となるのでしょうか。今からとても楽しみです。
 さて、来年のスポーツ一大イベントといえば、3月に開催される第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)です。今月15日には第1次候補選手39名が発表されました(うち黒田博樹<ドジャース>は辞退)。メンバーを見てみると、ほぼ予想通りでしたが、若干疑問に思えないこともありませんでした。

 まず第一にメジャーで不動のセットアッパーとして活躍している岡島秀樹(レッドソックス)の名前がなかったことに驚きを隠せませんでした。彼自身は出場に前向きなコメントをしていましたし、今月14日にはホノルルマラソンを完走しているほどでしたので、私は当然、選ばれるだろうと思っていました。

 投手陣を見てみると、中継ぎ専門は山口鉄也(巨人)ただ一人。もちろん、山口は今季、11勝2敗2セーブを挙げ、セ・リーグの新人賞を獲得した優秀な投手です。とはいえ、経験という点では少々心細いのではないでしょうか。一方、岡島はメジャーリーグで2年間、世界トップクラスの打者を相手に戦ってきているわけです。しかも、昨季はワールドシリーズの舞台も踏んでいる。極論を言えば、たとえ彼自身がマウンドに立てなくても、貴重な情報源となるわけです。

 一部ではケガをしているという報道もありましたが、まだ1次候補の段階ですから、名前を挙げてもよかったと思います。もし、本当にケガをしているのであれば、他の選手と同様に岡島自身が辞退を申し出ればいいのですから。

 岡島と同じくメジャーリーガーとして経験豊富な松井稼頭央(アストロズ)も、実績から考えても選ばれるべき選手の一人だったと思います。同じセカンドの岩村明憲(レイズ)とポジションが被ってしまうことを考慮したのでしょうか。しかし、岩村の本来のポジションはサードです。松井自身、ショートもこなせるわけですから、さほど問題はなかったように思われるのですが……。

 また、西岡剛(千葉ロッテ)の落選にも驚きました。前回のWBC、そして今年の北京五輪と国際舞台の経験を積んできたわけですから、本当にもったいないなぁと感じざるを得ません。コメントにあるように、彼自身もWBCを目標にしてきたというのですから、本当に残念です。

 ただ、どんなメンバー構成でも必ずどこかしらに不満は感じるもので、100%正しい選出などないに等しい。選ばれた選手は、選ばれずに悔しい思いをした選手の分も、頑張ってほしいなと思います。

 イチロー&岩村の役割

 さて、投手陣のメンバーを見てみると、ほとんどが先発型の投手が選ばれています。ということは、原辰徳監督ら首脳陣にショートリリーフの考えはないのでしょう。なぜなら、WBCには球数制限があるため、先発に6〜7回まで頑張ってもらい、1人ないしは2人のショートリリーフをはさんでクローザーへ、というリレーが不可能だからです。おそらく先発が4〜5回、リリーフが2〜3回を、そして最後の1〜2回をクローザーに、というような策を考えているのではないかと思います。

 そこで連覇のカギを握るキーマンとして、投手では左のリリーバーを挙げたいと思います。おそらく先発はダルビッシュ有(北海道日本ハム)、岩隈久志(東北楽天)、そして松坂大輔(レッドソックス)が柱となることでしょう。いずれも右投手ということを考えれば、リリーバーには左投手が欲しいですね。山口を除いて第1次候補の中で左は和田毅、杉内俊哉(ともに福岡ソフトバンク)、内海哲也(巨人)の3人。彼らがどんな働きをしてくれるのかが勝敗を大きく分けるような気がしています。

 では、打撃陣の方はどうかというと、まずは4番に誰が座るのか、ということでしょう。原監督とすれば、松井秀喜(ヤンキース)を適任者として見ていたと思います。しかし、残念なことにシーズン途中に手術した左ヒザの回復具合が思わしくないため、松井は今回も出場を辞退しました。

 もともと“スモール・ベースボール”を掲げる日本ですが、松井がいないのであればなおさらパワーで対抗はできません。予選ラウンドは別としても、世界の強豪が集結する決勝トーナメントでは長打力よりも確実にランナーを返すことの方が重要となってくることが予想されます。そう考えれば、松中信彦(ソフトバンク)が打線の中心を担うのではないでしょうか。そして、今季46本塁打を放ち、セ・リーグの本塁打王を獲得した村田修一が5番に入れば、さらに打線に厚みが増してくるでしょう。

 前回同様、チームの大黒柱としての活躍が期待されるのがイチロー(マリナーズ)です。前回は得点力不足に悩んだ王貞治監督が準決勝、決勝ではイチローを3番にし、それが結果として吉と出ましたね。しかし、イチローはやはりヒットメーカーですから、1番がふさわしい。そして何よりリーダー的存在である彼が出塁することによって、チームの士気が上がるのです。

 今年、レイズのリードオフマンとしてワールドシリーズ進出に大きく貢献した岩村の1番というのも見てみたい気はします。しかし、彼はヤクルト時代は3番を任されていたほどのバッターですから、何も1番にこだわる必要はありません。チーム事情を考えれば、3番あるいは6番などでポイントゲッターとしての働きを期待されているのではないでしょうか。

 WBCの意義

 日本の選手たちの目的意識、つまり「世界一」という目標は前回も今回も全くかわっていません。しかし、他国の日本への意識は違います。どの国もディフェンディングチャンピオンである日本に対抗心を燃やしていることでしょう。特に米国や韓国は前回の雪辱を果たそうと並々ならぬ決意のもと、戦いに挑んでくることでしょう。ですから、前回以上に頂点への道のりは険しいはずです。それでも日本には頂点を極めてほしいと思います。それが世界の野球界に大きな意味をもつと思うからです。

 2012年に開催されるロンドン五輪では、野球は正式競技から外れることが決定しています。これは世界で野球が普及されておらず、参加国が限られていることが理由の一つです。世界の人たちに野球というスポーツに目を向けてもらうためにも、WBCは非常に大きな役割は果たすはずです。

 しかし、そのWBCは現在、“米国の米国による米国のための”大会と言わざるを得ません。野球というスポーツの存在価値を高め、世界に普及させるためにもWBC は真の“世界一決定戦”にしていかなければならないのです。各国が米国と対等な立場で意見を出し合い、改善していくことが必要なのですが、そのためには日本を含めた米国以外の各国が力をつけ、米国に認めさせることが重要です。その筆頭が前回王者の日本というわけです。原ジャパンの活躍にぜひ、期待したいと思います!


 
佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
◎バックナンバーはこちらから