速いのは高橋尚子、強いのは弘山晴美。現役時代の二人にはそんなイメージがある。
 2000年1月30日、シドニー五輪選考を兼ねた大阪国際女子マラソン。弘山は37キロ過ぎでトップに立ち、レースを引っ張った。ゴールの先にはシドニー行きのチケットがあった。

 ところが、である。後方からじりじりと黒い影が迫ってきた。ルーマニアのリディア・シモンだ。競技場手前で弘山をとらえると並ぶ間もなく抜き去った。

 コーチの夫・勉はその場にはいなかった。渋滞に巻き込まれて到着が遅れてしまったのである。「最後に37キロ地点で声をかけたんですけど、そのまま走っていっちゃえばよかった。2キロも走ればすぐ競技場だったんですから」。後日、勉は苦笑を浮かべてこう言った。

 シモンに抜かれた弘山は、結局、シドニー五輪の代表メンバーに選ばれなかった。2時間22分56秒という好タイムをマークしたにもかかわらず。選考方法が不透明だとして、陸連には厳しい視線が注がれた。

 立ち直るのには時間がかかった。レースを思い出しては悔し泣きの日々が続いた。

 弘山が復活を遂げたのはその約3カ月後のことだ。1万メートルで五輪参加標準記録Aを突破して圧勝、マラソンで掴み損ねた代表チケットを自力で取り戻した。

「弘山、陸連に勝ったな!」
 ウイニングランをする背に観客の声が降りかかった。
 

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