中日・落合博満監督は投手にしろ野手にしろ即戦力を好む。昨オフのドラフトでも社会人野球で活躍する野本圭(日本通運)を1位指名した。
 落合がプロ入りしたのは26歳の時だ。社会人野球(東芝府中)時代は全日本の4番を打っていた。
 レギュラーを掴んだのは3年目。打率3割2分6厘で自身初の首位打者を獲得した。ホームランは33本。打点90。三冠王に輝くのは、その翌年のことだ。

 落合とはタイプこそ異なるが、野本は「社会人ナンバーワン野手」の片鱗を早くも見せ始めている。沖縄・北谷のキャンプでは右へ左へと巧打を連発し、首脳陣から高い評価を受けている。狙うポジションはセンター。
「尊敬している選手は立浪(和義)さん」
 そう言うだけあって打ち方はよく似ている。右足を上げることで、体にタメをつくっている。

 なぜ一本足なのか?
「一昨年のオフ、ある記者の方から“一本足にしたり、すり足にしたりではプロでは通用しないよ”と言われたんです。自分でもそれはわかっていた。どっちかに絞らないとダメだなと。
 一本足にしたのは、すり足だと体が開いてしまうからです。一本足だと(軸足の)左足にしっかりと重心が残り、右足をステップする際もしっかりと体を割ることができる。そこから(スムーズに)ボールを打ちに行くことができるんです。
 一本足にしてミートがしっかりできるようになりましたね。すり足のようにスイングの軌道が大きくならないから、的確にボールをとらえることができる。パンチ力も一本足の方があるような気がしますね」

 すり足よりも一本足の方が合っているというのなら、それでいい。しかし一本足の場合、タイミングをはずされると対応できないという弱点もある。
 あるスコアラーの話。
「社会人ならそれでも通用したかもしれないが、プロの一線級の変化球にかかるとバッティングの軸を崩されかねない。ホームランバッターなら、打率2割5分でも30本打てばいいが、野本のようなタイプは最低でも2割8分は求められる。安定性を求めるのなら二本足でしょう」
 足も速い。盗塁には一家言持っている。
「(走る際には)相手投手のクセを見ますね。右投手の場合、前足がピッと前に動いたら牽制はできない。でも先に動く人もいる。肩が動いたらボーク。ほんのちょっとのクセでも絶対に見逃さないようにしています」

 野本にとって心強いのは打撃コーチも兼任する立浪の存在。北谷では後輩を熱心に指導していた。野本には最高のお手本だ。
 おそらく落合監督から「野本を一人前にしてやってくれ」と頼まれたのだろう。
 逆に言えば4番のタイロン・ウッズがチームを去った今季、社会人ナンバーワンルーキーが額面通りの働きをしなければ中日は苦しい。目指すはもちろん開幕スタメンだ。

<この原稿は2009年2月22日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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