いよいよ第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)開幕まで1週間となりました。宮崎での合宿を終え、最終メンバー28人も決定しました。代表選手はもちろんですが、本番に向けて徐々にテンションが上がってきている野球ファンも少なくないでしょう。いかに今大会への注目度が高いかは、昨日24日に行なわれたオーストラリアとの強化試合がほぼ満席状態だったことでもわかります。会場となった京セラドームの熱気がお茶の間にも届いていたのではないでしょうか。
 さて、最終メンバーに選ばれた28人の顔触れを見てみると9割方、適材適所に選手を配置できたのでないかと思います。では、残り1割は何か。それは長打力をもう少し組み込んだ選出をしてほしかったなぁということです。

 現在、世界から見た日本野球とは主にスモールベースボールをさします。つないで確実に点を取り、守り、確実に勝つ。この戦い方ができるのが日本というわけです。しかし、実際にNPBではどうかというと、パワー野球に戻りつつあります。特にパ・リーグでは速いボールでインサイド攻めするピッチャーに対して、それにうまく対応し、スタンドまで運ぶことのできるスラッガータイプの打者がたくさんいます。だからこそ、中途半端にしか力のない外国人バッターは今やNPBでは通用しないのです。つまり、つなぎだけではなく、パワーも兼ね備えているのが真の日本野球です。

 ところが、どうもスモールベースボールを前面に出しすぎてしまっているような気がしてならないのです。せっかくパワーをもった選手がいるのですから、WBCでは思う存分、出してほしい。今回28人に残った中では、村田修一(横浜)や中島裕之(埼玉西武)などがそうですね。彼らのフルスイングは豪快で観ている者にとっても、実に気持ちがいいもの。ぜひ彼らが思い切ってブンブン振り回すことのできる環境をつくってほしいですね。特にアジアラウンドでは、小さくまとまる必要はありません。「日本はパワーもあるのか。手強いなぁ」と世界に知らしめる絶好のチャンスなのですから。

 今大会ではもちろん連覇することも大事ですが、それ以上に日本野球の魅力を伝えることも重要です。世界での日本野球の評価が高まることもさることながら、日本国内においても子どもたちが「日本って強いな。将来は日本でプレーしたいな」と思ってくれれば、日本球界の発展にも寄与します。

 その意味で昨日のオーストラリア戦は、私としては不満が残る試合でした。北京五輪でもそうでしたが、フルスイングできるバッターが思いっきり振っておらず、観ていて「もっと力があるのに……」という歯痒さでいっぱいでした。特に村田なんかは力を出し切れていなかったように映りました。もちろん、ケースバイケースですが、全員が常につなぎを意識する必要はないのではないかと思います。たとえ村田がフルスイングして三振に終わっても、それを補えるメンバーがWBC代表にはたくさんいるはずです。
 今日25日には再びオーストラリアとの強化試合があります。「日本は強い」。今日こそは誰もがそう思える試合をしてほしいと思います。

 さて僕がキャンプに訪れた阪神からは、藤川球児、岩田稔が選ばれました。藤川の調整は順調そのもの。国際経験も豊富ですから、ケガさえなければ特に不安要素はありません。

 ただ藤川がピークをいつの段階でもっていくのか、ということについてはキャンプの段階では明確にはわかりませんでした。どの選手もそうですが、1年間、いい状態を維持するということは非常に難しいことです。必ずといっていいほど落ちる時期が1度はあるものです。しかし、藤川は年間を通して安定したピッチングを目指しています。これまでよりももう一つ上のレベルにまで自分を引き上げようとしているのです。そのためにどうすればいいのかを考えながら今も調整しているはずです。

 そろそろ本調子になってもいい頃かと思いますが、痛めていた右内転筋の具合にもよります。開幕まであと1週間あるわけですから、ケガをおしてまで急ぐ必要はありません。今日のオーストラリア戦でおそらく登板の機会が与えられることでしょうから、彼の体の調子がいかばかりか、注目して観てみたいと思います。

 一方、初めて日本代表に選出された岩田は絶好調ですね。昨季、3年目にして初の2ケタ勝利を得られたことが自信となっているのでしょう。よく“2年目のジンクス”と言われたりしますが、その心配は全くないようです。不安にかられると、「自分の球は研究されているだろうから、新しい球種を覚えたほうがいいのでは……」と考えがちです。しかし、岩田は違いました。「今あるものをさらにレベルアップさせていこうと思っています」。そう答える岩田には一切迷いは感じられませんでした。

 結果を残せなかった一昨年までと10勝を挙げた昨年との一番の違いは、やはり気持ちです。昨年、岩田は「今年、ダメだったら自分はプロでは通用しないということ。きっぱりと諦めよう」と一大決心をして臨んだのです。つまり、いい意味での開き直りが功を奏したというわけです。

 さて、その岩田は昨日のオーストラリア戦、6回に3番手としてマウンドに上がりました。1死からヒットを打たれましたが、次打者を併殺打に打ち取り、結果的には3人で終わらせました。初めて日の丸を背負うわけですから、物怖じしてもおかしくないのですが、岩田は非常に落ち着いて普段通りのピッチングを見せてくれましたね。内容も非常によかったと思います。WBCで彼に期待されているのは、貴重な左のリリーバーとして、どんな状況においても相手の攻撃の流れを止めるということ。昨日の試合を観た限りでは、本人もきちんとそのことを理解しているようですので、本番でもきっと活躍してくれることでしょう。


佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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