ヴェルディの司令塔ラモス瑠偉は左足大腿部を傷め、万全の状態ではなかった。試合前のサンフレッチェベンチの指示は「気を付けるのはビスマルク。ラモスは適当に遊ばせておけ」というものだった。そこに油断があった。

 1994年11月26日、Jリーグチャンピオンシップ第1戦。ヴェルディ川崎対サンフレッチェ広島。初戦はサンフレッチェの本拠地広島ビッグアーチで行われた。観衆42,316人。

 セカンドステージを制したサンフレッチェは当時、Jリーグで最もモダンなサッカーを展開していた。風間八宏と森保一のドイスボランチが中盤を支配し、前線ではアジアの大砲と呼ばれた高木琢と正確無比なヘディングシュートを売り物にするイワン・ハシェックがにらみをきかせていた。

 当時サンフレッチェの総監督を務めていた今西和男は「うちがヴェルディに負ければ日本のサッカーの進歩は10年遅れる」とまで言い切った。事実、セカンドステージでのヴェルディ戦はアウェーであるにも関わらずサンフレッチェが快勝していた。

 しかし、チャンピオンシップとなるとさすがに経験がモノを言う。前年の覇者であるヴェルディは敵地で用心深い戦いを見せた。ワンチャンスに賭けたのである。

 前半35分、フリーのラモスが右サイドから絶妙なパスを抜け出してきた北澤豪におくった。迷わず右足を振り抜いた北澤。鋭いシュートはゴール右隅に突き刺さった。

「オレをナメてもらっちゃいけないよ」。試合後、ラモスは上機嫌で語った。37歳の妙技だった。

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