19打数5安打、打率2割6分3厘。打数の少ない短期決戦では決して非難されるような数字ではない。しかし、この打率の主がイチローだとなると話は別だ。

 1995年の日本シリーズはヤクルトとオリックスの間で行われた。勝負のカギは、ヤクルト投手陣がいかにして打ち出の小槌のようなイチローのバットを封じるか。

 ヤクルトの司令塔はキャッチャーの古田敦也。シリーズ前、古田は投手陣に「対角線で攻めよう」と指示を出した。すなわち速いボールでイチローの胸元を突き、踏み込みを弱くさせておいて、アウトローに変化球を配するという作戦だ。

 これがまんまと図に当たった。テリー・ブロス、吉井理人、石井一久、川崎憲次郎らは死球のリスクを負いながらも胸元を厳しく攻めた。第4戦が終わった段階でイチローは16打数3安打、打率1割8分8厘。

 10月26日、神宮球場。ヤクルトの3勝1敗で迎えた第5戦、ついにイチローのバットが火を噴いた。第1打席、先発ブロスの高めのストレートを、ものの見事にライトスタンドへ叩き込んだのだ。

 このボールこそは初戦の第2打席であえなく三振に切ってとられた外角高めのストレートだった。初戦では力負けしたブロスのストレートを完璧なスイングで弾き返してみせたのである。

 だがゲームは3対1でヤクルト。やられっぱなしでは終わらない。あれはイチローの意地の一発だった。

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