「このスタジアムがこんなに興奮したのは久しぶりだ。88年のワールドシリーズ初戦でカーク・ギブソンが劇的なホームランを打って以来だろうか」
 そう語ったのはロサンゼルス・タイムズのケビン・バクスター記者。WBC決勝の日本対韓国戦を見ての感想だ。最高の褒め言葉といっていいだろう。

 1988年10月15日、ドジャースタジアム。ワールドシリーズはアスレチックスとの間で行われた。アスレチックスには「バッシュブラザーズ」の異名をとったホセ・カンセコやマーク・マグワイヤがスタメンに名を連ねていた。守護神には後に殿堂入りを果たすデニス・エカーズリー。下馬評は圧倒的にアスレチックス有利だった。

 第1戦、1点を争う好勝負は9回に突入した。当然のごとくアスレチックスのマウンドには守護神エカーズリー。4対3とアスレチックス1点のリード。

 2死後、マイク・デービスが四球で歩き、ここでトミー・ラソーダ監督は代打にカーク・ギブソンを送る。デービスが二盗を決め、タイムリーが出れば同点の場面。フルカウントからエカーズリーはスライダーを投じた。

 それをギブソンは見事にとらえた。両足を傷め、フルスイングもできない状態だったが、集中力と精神力でカバーした。イチロー風に言えば「神が降りてきた」瞬間だった。逆転サヨナラホームラン。足を引きずりながらホームインするギブソンの背に嵐のようなスタンディング・オベーションが降り注いだ。

 シリーズは4勝1敗でドジャースが制し、6度目のワールドチャンピオンに輝いた。ギブソンは一振りで歴史に名を刻んだ。

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