試合が終わってからも、テレビの前から立ち上がることができなかった。実況を担当した杉浦滋男アナウンサー(故人)の絶叫は、今も私の耳の奥にこびりついたままである。
1971年10月25日、愛知県体育館。ボクシングWBA世界バンタム級タイトルマッチ。ルーベン・オリバレス対金沢和良戦。
当時、オリバレスは“史上最強のバンタム”と呼ばれるほど評価が高く、金沢が勝つチャンスは「万にひとつもないだろう」と言われていた。
ところが試合は誰もが予想しなかった展開をたどる。金沢の善戦で13ラウンドへ。この回、先手を取ったのはオリバレス。上半身をエネルギッシュに躍らせながら、力感あふれる左右のフックをボディ、顔面へと打ち分ける。金沢はサンドバックのように左右に揺れながらも、必死になって耐えた。
中盤、金沢が鬼気迫るような逆襲に転じた。打ち疲れのオリバレスに猛然とラッシュ。オールオアナッシングの右フック、左アッパーがおもしろいようにチャンピオンの顔面をとらえた。
だが、とどめの一発がどうしても標的をとらえられない。勢い余った金沢はたびたびバランスを崩し、キャンバスに両ヒザをついた。
「13ラウンドの攻防? あぁ全部覚えているよ。それまでバンバン打たれていたでしょう。どうせ倒れるのなら10秒でも20秒でも無茶苦茶な攻撃をしてやろうと思って、パンチを振り回した。と、信じられないことにこれが当たった。アゴに左がヒットした瞬間、ヤツの体が宙に浮くのがわかったよ。行け! オレは死ぬ気で攻めたよ。相手も死ぬ気なら、ワシだって死ぬ気。本当に死んでもいいと思ったんだ……」
しかし、金沢の反撃もここまで。14ラウンド、オリバレスの逆襲をくって2度、キャンバスにヒザを折った。立ち上がりざま、マウスピースを吐き出し、奇声を発した。
「テメエ、殺してやる」
玉砕の寸前、彼はこう叫んだ。
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