今年のJリーグ開幕戦(3月7日)、川崎フロンターレ対柏レイソル。両クラブ無得点で迎えた後半5分、柏はカウンター攻撃でチャンスを迎える。一度はクリアされたものの、セカンドボールを拾ったFWポポが右サイド奥深くから、絶妙なクロスを上げる。ニアの位置からゴール前に飛び込んだのは背番号15、菅沼実だった。
「いいボールを上げてくれたので、枠に飛ばせば入ると思っていた」
 やや難しい角度ではあったが、うまく頭を合わせるとボールはゴールネットへ。柏の今季初ゴールは、クラブの中で主力としての期待に応えつつある23歳のFWによって生み出された。

「(監督が代わって)新しいチームになって、最初の試合がフロンターレ。去年の準優勝チームですし、いいスタートを切りたかった。(ゴールは)最初から狙っていましたよ。まぁ、結果は同点(1−1のドロー)でしたから……」
 柏はリーグ戦で4分け。カップ戦でも1勝1分け(4月5日現在)。今季はここまで公式戦負けなしの成績が続いている。
「結果、引き分けなんですけど、決め切れなかったという試合が多い。この前もシュート5本打って、1本も入らなかった。惜しいじゃ何にもならない。勝つためには自分が決めないと」
 サッカーは最終的に点を獲らないと勝てないスポーツである。負けないことより、勝てないことに攻撃の選手として責任を感じている。

 シュートはチームで一番うまい 

 昨季はリーグ戦でチームトップの10ゴールをマークした。10得点という数字以上に彼の印象が強いのは、短期間で立て続けにゴールを量産しているからだろう。昨季は9月27日の川崎戦を皮切りに4試合連続でゴールネットを揺らした。その後の5試合でも2得点をあげた上に、リーグ戦と並行して行われた天皇杯でも2ゴール。決勝進出の立役者のひとりとなった。

 一昨年も開幕戦(対ジュビロ磐田)でいきなり2ゴールの活躍をみせると、4戦4発。J1に復帰したクラブを勢いづけた。さらに、その前年(2006年)は期限付き移籍していた愛媛FCで、4試合5ゴール。J昇格1年目のクラブを9位に押し上げる原動力になった。

「シュートはチームで一番うまい」と柏・高橋真一郎監督が評価するように、前線でボールを持たせると、ゴールの匂いが漂ってくる。「そんなものないですよ(笑)」。本人は笑って謙遜するが、相手としてみれば、マークすべきFWであることは間違いない。

 もっとも得意とするのは左45度から放つシュート。低く鋭い弾道で相手ゴールに突き刺さる。愛媛時代に、この角度からのゴールが多かったことからイタリア代表FWの“デルピエロ・ゾーン”をもじって“ミノル・ゾーン”と呼ばれるようになった。「コースに速く低いシュートを打て。これは小学校の頃に習った基本です。ここを自分に言い聞かせながら練習しています。まだまだですけどね」。先にあげた一昨年の開幕戦の2ゴールはいずれも、“ミノル・ゾーン”からの得点だった。利き足は右だが、左足からも強烈なシュートを打てる。その精度は年々、上がっている。

 さらに最近はヘディングでの得点も増えてきている。173センチと決して長身ではないが、昨季の10ゴールのうち、6得点は頭で押し込んだもの。これは「利き足は頭」と公言する巻誠一郎(ジェフ千葉)に次ぎ、リーグ2位タイだった。
「落下地点に一番早く入ることを気をつけています。向こうもいいところで守ろうと駆け引きがあるのですが、とにかく先にいいポジションをとる。まぁ、無意識のうちにやっているんですけどね」
 昨季のリーグ戦初ゴール(5月6日、ヴィッセル神戸戦)はゴールに背を向けながら、バックヘッドで相手GKの頭上を破った。今季初ゴールも冒頭で紹介したようにヘッドで決めている。

 思い切りの良さと、粘り強さと

「彼のいいところは思い切りの良さ」
 菅沼の長所を在籍していた愛媛や柏の選手、首脳陣に尋ねると、ほぼ共通した答えが返ってくる。左ウイングのポジションから中に切れ込んで、チャンスとみるや、ミドルの位置からもどんどんシュートを打ってくる。そのプレーに迷いはない。
「僕はもう、どんなゴールでもいいから欲しい。だって、点獲ったら楽しいですもん。“入ったー!”って(笑)。点を獲れる選手は本当にすごいと思う」

 その言葉を物語るかのように、ゴール前では泥臭く、粘り強い。相手DFのスキを突き、タイミングよく顔を出す。そして、こぼれ球には激しくくらいつく。「イヤらしい位置にいるし、イヤらしいプレーをする。DF側からみたらやりにくい選手でしょうね」。現役時代、日本代表の名DFとして活躍した井原正巳ヘッドコーチは守備側の視点から若きストライカーを評する。

 アグレッシブなプレーの裏には豊富な運動量があることも見逃せない。とにかくピッチに出ている間、黄色いユニホームを着た菅沼は左サイドから中央、右と縦横無尽に駆け回っている。ある日本代表DFは、「ミノルは運動量が多い。自由にやらせないようにしないと」と警戒する。

 ずば抜けた運動量を支えるのは、トレーニング量の多さだ。居残り練習をするのは日常茶飯事。ユース時代からそれは変わらない。
「才能なんて、オレはないですよ。練習してナンボだと思っているから」
 そう語る本人に、自身のセールスポイントを訊いてみた。 
「ゴールへの執着心は人一倍強いと思いますけどね」

“ゴールへの執着心”。それはプレースタイルはもちろん、インタビュー中に幾度となく繰り返された「負けたくない」「結果にこだわりたい」「勝負強くなりたい」といった言葉の端々から、充分すぎるほど伝わってくる。「結果を出さないと試合には出られなくなるんで」。人一倍の執着心は、裏返せば人一倍の危機感につながる。柏の主力選手になりながら、危機感がまったく薄れないのはなぜか――それは彼がたどった道のりが、決して平坦ではなかったからである。

(第2回につづく)

<菅沼実(すがぬま・みのる)プロフィール>
1985年5月16日、埼玉県岩槻市(現さいたま市岩槻区)出身。ポジションはMF、FW。4歳からサッカーを始め、柏ジュニアユースを経て、ユース所属の02年に17歳5カ月の若さでJリーグデビュー。翌年には初ゴールも記録する。04年、トップチームとプロ契約。05年にブラジルリーグ2部のECヴィトーリアへ期限付き移籍。06年にはJ昇格直後の愛媛FCに移籍し、45試合で11得点をあげ、結果を残す。07年に柏に復帰後は開幕4試合で4得点をあげ、北京五輪予選に臨むU-22日本代表にも選ばれた。08年は30試合10ゴールとJ1で自己最高の成績をあげている。これまでの公式戦通算成績は134試合31得点、J1通算68試合17得点(2008シーズン終了時)。173センチ、69キロ。







(石田洋之)
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