4月11日、3年目を迎えたBCリーグが開幕しました。新潟アルビレックスBCはホーム・悠久山球場で、石川ミリオンスターズと対戦しました、ちょうど外野席後方の桜が満開と最高のシチュエーションの中、試合も1−0と競り勝ちました。上々のスタートを切ることができましたが、今シーズンはどこもしっかりとした補強をしていますので、特に突出したチームはなく、これまで以上に接戦が多くなることが予想されます。もちろん新潟も例外ではありません。ですから、私の中での長期的なプランはなく、とにかく1試合1試合、自分たちのやるべきことをきちっとやっていくことが重要だと思っています。
 さて11日の開幕戦、打線のいい石川を5安打完封し、勝利投手となったのが新入団の伊藤秀範(駒場学園高−ホンダ−香川オリーブガイナーズ−東京ヤクルト)です。伊藤は18日の信濃グランセローズ戦でも先発し、2勝目を挙げました。成績だけを見れば結果を残しているわけですが、まだまだ本調子ではありません。香川時代にも伊藤のボールを受けていた上ノ下健(鹿児島実業高−鹿児島国際大−香川−鹿児島ナインスターズ)も「まだまだボールはきていない」と言っていました。彼の実力はこんなものではないはずです。

 今は高めのボールが多いのですが、本来なら今より10〜20センチほど低めのアウトコースにビュッと速い球がいっていたはずです。そのボールが投げられるようになれば、彼の生命線であるスライダーがもっといきてくるのですが、現在はそれがありません。
 
 調子が出ない最大の要因は、体のキレがないことにあります。というのも、今の伊藤は完全にベスト体重をオーバーしてしまっているのです。私が香川の監督時代に彼はエースという関係だったということもあり、球団トライアウトの際に彼をひと目見てすぐにわかりました。現在はコーチと相談しながら、短距離のダッシュを取り入れるなどキレを取り戻すためのトレーニングに必死です。彼の真の姿をサポーターにお見せできるには、もう少し時間がかかりそうです。

 一方、左のエース中山大(新潟江南高−新潟大−バイタルネット)は現在2試合に登板し、2敗を喫しています。実は中山は10月中旬に左ヒジを手術したため、調整が遅れていました。本格的に投げ始めたのは3月下旬でしたから、よく開幕に間に合ったものです。とはいえ、肩は間に合わせることができたものの、肝心のフォームの方がまだまだ調整不足の状態です。

 中山はより上のレベルを目指そうとしたのでしょう。昨シーズンの終盤からもっと速いボールを投げたいという気持ちが芽生え始め、パワーピッチングをするようになりました。そのため、打者に対して体が早く正対してしまい、ボールが見えやすくなっているのです。結果、昨シーズンのような安定感がなく、打順が2巡目以降になるとつかまってしまうわけです。もっと上半身を柔らかく使い、下半身からリードしていかなければなりません。フォーム修正が当面の中山の課題ですね。

 しかし、中山が登板した試合には野手のミスが多いということも敗因です。19日の信濃戦ではフライへの捕球やフィルダースチョイスなど内野陣がミスでピンチを広げてしまいました。とはいえ、野球にミスはつきもの。選手たちが全力でやった結果でしたので仕方なかったと私は思っています。フィルダースチョイスにしても、気持ちが入りすぎて冷静になれなかったのが原因であって、怠慢プレーでは決してありませんでした。重要なことは反省をし、次につなげること。決して試合後もひきずることではありません。

 選手たちはそれを理解してくれているのでしょう。試合後、いつも通りに球場に足を運んでくれたサポーターを出入り口付近で見送ったのですが、どの選手も悔しい気持ちを胸に秘め、笑顔で対応していました。見る人から見れば「負けたのに笑っているなんて……」と感じる方もいることでしょう。しかし、いつまでもひきずって落ち込めばいいというわけではありません。それよりも反省をしながら早く気持ちを切り替え、前に進むこと。それがプロでしょう。今後も失敗を恐れず、スローガン通り“がむしゃらに”戦っていきたいと思います。今シーズンも、応援よろしくお願いします!


芦沢真矢(あしざわ・しんや)プロフィール>:新潟アルビレックスBC監督
1958年1月1日、山梨県出身。巨摩高校時代は4番・捕手として初の甲子園に出場。76年、ドラフト5位でヤクルトに入団し、貴重な控え捕手として活躍。88年に現役引退後はヤクルトでブルペン捕手、広島でコーチを務めた。2005年、四国アイランドリーグの香川オリーブガイナーズ初代監督に就任し、2年目の06年には優勝に導く。昨年は北信越BCリーグの石川ミリオンスターズで運営を部長を務め、昨季より新潟の監督に就任した。


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