いよいよNPBも開幕し、セ・パ両リーグともに激しい戦いが行なわれています。セ・リーグは現在、3連覇を狙う巨人が首位を独走中。それを東京ヤクルト、中日、広島、阪神が順位を入れ替わりながら追っています。横浜もスタートでつまづいたものの、徐々に調子を上げつつあります。WBCで負傷した主砲・村田修一も復帰しましたので、今後セ・リーグの争いはますます激化することでしょう。一方のパ・リーグは前評判通り力が拮抗しており、首位争いが激しさを増しています。果たして長期間のGW明けにはどんな結果となっているのでしょうか。これからの展開が非常に楽しみです。
 さて今シーズン、私が注目していたことの一つに阪神の新指揮官である真弓明信監督の投手起用があります。というのも阪神は井川慶がチームを離れて以来、なかなか先発投手のかたちを構築することができていません。それは昨シーズンも同様でした。そのため、新監督がどのような采配をふるうのだろうかと興味があったのです。

 キャンプ時、真弓監督は「先発投手には完投を目指すくらいの気持ちでできるだけ長いイニングを投げてほしい」と言っていました。これは阪神が一番重要なシーズン終盤やプレイオフでつまづく理由にリリーフ陣の勤続疲労があると真弓監督は分析したからでした。特に誰にも代理ができない抑えの藤川球児に対して、前半はできるだけ登板を減らしたいという気持ちは強いはずです。わずか1イニングでも、自分のピッチングで試合が決定するあの重圧からくる疲労は想像以上なのです。

 とはいえ、新人監督というのは先発が崩れ始めると、不安になってすぐに動きたがるものです。特に真弓監督はコーチ経験はあるものの、指揮官は未経験ですからなおさらです。ところが、シーズンに入っても真弓監督はやり方を変えることはありませんでした。「継投が遅い」という批判の声もありますが、私は自分の思い通りにやっている真弓監督をある意味すごいと思いながら見ていました。

 久保田智之の先発転向も含めて、「安定しているかたちをわざわざ変える必要はない」という意見もあります。しかし実際、阪神は毎年Aクラス入りしているものの、日本一を達成することができていません。それならば、何かを変える必要があると考えるのは当然のことでしょう。その一つとして真弓監督は投手起用が原因だと分析したわけです。

 真弓監督が変えたのは先発ばかりではありません。リリーフに対しても、昨シーズンまでのJFKのように固定したかたちにこだわらず、その時状態のいい投手を使っています。現在はアッチソンや渡辺亮などが登板機会を与えられていますが、これまで控えに甘んじていた投手にもチャンスが十分にあるわけです。また、先発陣にしても少しくらい打たれても我慢してもらえるのですから、それほど結果を気にせずに思い切って投げることができるはずです。

 しかし、このようにしてせっかく真弓監督が窓口を広げて選手にチャンスを与えているにもかかわらず、選手自身はまだそれにほとんど応えることができていないように感じられます。特に先発は「ここを最少失点に抑えれば、続投だろうな」という場面で踏ん張ることができていません。22日現在、阪神は6勝9敗1分で5位。決していい結果が出ているとは言えません。真弓監督の投手起用が要因という声もありますが、私はそれよりも選手たちがもっと奮起して監督の期待に応える努力をすべきだと感じています。

 どの世界でもそうですが、長い間やってきたことを壊して新しいことを始めるのはとても勇気がいることです。大変な労力も使うことでしょう。しかし、旧態依然のままでは何も変りません。せっかく監督が交代したのですから、真弓監督らしい野球をこれからもどんどん見せていってほしいと思います。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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