今月6日に行なわれた南アフリカW杯アジア最終予選ウズベキスタン戦で、日本代表は4大会連続のW杯出場を決めました。この試合はアウェーの過酷な環境で行なわれました。それでも岡田武史監督をはじめ、選手やスタッフが一丸となって勝ちを奪い取った。得点は僅差でしたが、敵地で勝ちを得るのは難しいことです。しっかりと結果を出したことは立派でした。

<勝てたことが一番の収穫>

 5万人の相手サポーターが詰め掛けたスタジアムで、日本が展開したサッカーは岡田監督の目指すものからはかけ離れた内容でした。しかし、それでも勝利したことに意味があります。なぜなら岡田監督は戦前から「ウズベキスタン戦に集中している」と繰り返し発言してきた。チーム全体に「この試合で出場権を獲得するんだ」という強い意志が感じられました。私も先月のコラムでウズベキスタン戦に集中するようにお話しましたが、まさにその通りの結果になりましたね。「狙い通りに勝つ」というのは想像以上に難しいことです。今回はそこにアウェーという厳しい条件が加わっていたのですから、なおさらのこと。主審の不可解な判定にも集中が途切れることなく、無失点で切り抜けたことは大きな成長といえるでしょう。世界最速での南アフリカへの切符を掴んだことには意義があると感じました。

 その後、10日のカタール戦(ホーム)、17日のオーストラリア戦(アウェー)では1分け1敗という結果。まずはカタール戦の引き分けについてお話しましょう。4日前に出場権を獲得したからといって、気が緩むようなことは岡田ジャパンの選手たちにはなかったでしょう。遠藤保仁(G大阪)、長谷部誠(ヴォルフスブルグ)の不在もありましたが、今まで先発に入っていなかった選手の組み合わせをどのようにするか。それを試す試合だったと思います。引き分けという結果でしたが、選手1人1人の出来は悪くなかった。ここから1年後にチームが完成するように、起用法を試行錯誤しているところでしょう。本大会でも今回の遠藤、長谷部の欠場のようなことは起こり得ることです。各選手が監督の求めるパフォーマンスを常時見せられるようになれば、選手層にも厚みが加わってきます。

 カタール戦に続きオーストラリア戦も遠藤、長谷部が不在でした。しかし、オーストラリアもフルメンバーと呼べる布陣ではありませんでしたね。お互いにW杯出場を決めているチームだけに、ここではもう少しいいサッカーを見せてもらいたかったというのが本当のところです。遠藤が中盤に構えていないことで全体を押し上げる時間、いわゆるタメを作ることができませんでした。その影響が最も顕著に表れたのは中村憲剛(川崎F)にボールを当てた後。ここで時間的な余裕がないために、中村憲にボールが入ってもサポートする選手がいなかった。特にサイドバックの攻撃が少なかったですね。もう少し中盤でキープしながら時間に余裕があれば、両サイドの上がりを待つことができたでしょう。サイドが機能しなかった日本は、タテ1本のパスに頼るしかありませんでした。特に後半は縦パスをゴール前に放り込むだけの試合になってしまいました。私の頭には中盤でタメを作れる選手というと、どうしても小笠原満男(鹿島)の名前が浮かんでしまいます。彼は本来の調子を戻していませんが、万全ならば遠藤にも匹敵するタメ作りができる選手です。オーストラリア戦のような試合でも、彼が入ることでチームは活性化するように思うのですが……。

<攻守のセットプレーを磨くこと>

 最終予選を終えたここからの1年間が南アフリカでの戦いに向けて非常に大切になります。岡田ジャパンにとって、最も心配な点はこれまで強いチームとの試合が組めていないことです。9月にはオランダ遠征を控えていますが、岡田監督が就任してから1年半の間に、世界を代表するような強豪との試合は一つもありませんでした。強い相手と組んでこそ、自分たちの実力がわかります。アジア最終予選を突破したとはいえ、日本がどこまで世界を相手に通用するか、正確なことは今のところ誰にもわからないでしょう。己の力を知るためにも、今後のマッチメークがカギになりますね。

 そして強豪との試合で重要視したいのはセットプレーです。これは攻撃、守備の両面で確認していかなければなりません。先日のオーストラリア戦では、終始押される展開でしたが、流れの中からの失点を食らうシーンはありませんでした。2失点はいずれもセットプレーから。フィジカルの強い相手に対して、どのようにゴールを守っていくのか。これは本大会で実力のある国を相手にするうえで、必ず解決させなければいけない問題でしょう。

 そして攻撃面でもセットプレーは武器になります。流れの中で失点することはありませんでしたが、一方で流れの中から攻撃を組み立てることもできなかった。日本の先制点はコーナーキックから田中マルクス闘莉王(浦和)のヘッドでしたね。彼や中澤佑二(横浜FM)の高さは岡田ジャパンにとって武器となり得るものです。しかし、せっかく破壊力のある道具を持っていても、うまく使わなければなんの役にも立ちません。おそらく本大会で戦う相手はDF2人のヘッドを警戒してくるでしょう。彼らが講じる対策の上をいく工夫やボールの精度を磨いていかなければいけません。最終予選の最終戦で改善すべき点が見つかったことはプラスと取っていいでしょう。

<若手選手の成長に期待>

 最終予選が終わったことでJリーグが再開されました。代表に招集されていた選手も、それぞれのクラブへ戻っています。最終予選を戦い抜いた代表選手の働きをみて、Jリーグで戦う若い選手たちにはモチベーションを高く持って果敢にチャレンジしてもらいたいですね。仮にこの1年間で代表に入ることができれば、もれなくW杯がついてくるんです。サッカー選手ならば、誰でもあの舞台に立ちたいと思うでしょう。1年弱で岡田監督へのアピールが成功すれば、予選を経験せずとも本大会に出場できるわけです。こんなチャンスはめったにない。

 各クラブに戻った代表選手たちが、危機感を持つようなシーズンになれば、本大会での代表に期待が持てるでしょう。反対に、最終予選を戦った岡田ジャパンのメンバーがそのまま南アフリカへ乗り込むようでは、チームの力は上がりません。ここからのリーグ戦での生き残りが熾烈になればなるほど、日本サッカーは面白くなります。それぞれの長所をアピールする選手がたくさん出てくることを期待しています。


● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


◎バックナンバーはこちらから