今季のNBAファイナルはレイカーズ対マジックの対戦となった。
 レブロン・ジェームス率いるキャブスが敗れてしまい、レブロンとコービー・ブライアントの最強プレーヤー対決を期待していたファンたちはがっかりしたことだろう。しかし代わりに檜舞台に上がるマジックも多数の魅力的な若手スター候補を擁しており、シリーズ開戦後はフレッシュなプレーで全米のスポーツファンを沸かせてくれるに違いない。
 長い旅路の果てに、頂点に立つのは通算15度目のファイナル制覇を目指す名門レイカーズか。あるいは大黒柱ドワイト・ハワードを軸に躍進を続けるマジックか。今回はこの最終決戦の見どころをいくつかピックアップしていきたい。
(写真:今季のファイナルはどんな名シーンを生み出してくれるのだろうか)
【注目の対決】

 今シリーズの最大の注目ポイントは、やはり両チームが誇るスーパースターがそれぞれどんなプレーを見せるかに尽きる。
「現役最強のスコアリングマシン」の名を欲しいままにするコービー・ブライアントについて、今さら説明は不要のはずである。2000〜02年までファイナルを3連覇した頃からのレイカーズの中心メンバー。得点王は2度、MVPにも1度選ばれ、昨夏の北京五輪では全米代表の一員として金メダルも獲得している。あとやり残しがあるとすれば、シャキール・オニールの助けを受けないでのファイナル制覇くらいのもの。それを成し遂げるために、コービーにとって今季こそが最大の好機だと言っていい。

 一方のドワイト・ハワードの方はまだ23歳の伸び盛り。しかしこの若さですでに昨季から2年連続リバウンド王に輝き、今季はディフェンシブ・プレーヤー・オブ・ジ・イヤーも初受賞した。昨年のオールスターのスラムダンク・コンテストではスーパーマンに扮しての豪快ダンクで優勝を飾り、キャラクターの面白さも証明した。総合的に見て、ハワードはすでにシャキール・オニールを凌駕し、名実ともに現役NO.1ビッグマンの座に到達したと言っていい。
(写真:現役最高センター、ハワードはマジックを頂点に導けるか)

 SGコービーとセンターのハワードではポジションが異なるため、直接のマッチアップは考え難い。それゆえに対決と呼ぶのは憚られるが、ただこの2人の出来がシリーズの行方に直結してくることはまず間違いない。

 上昇一途のハワードに失うものはほとんどないのに対し、負けたときのダメージが大きいのはコービーの方だろう。
 1年前にセルティックスに完敗を喫したのに続き、大舞台での経験は皆無に等しいマジック&ハワードにまで敗れたとなれば、「シャック抜きでは勝てない」というレッテルはコービーにべったりと張られてしまう。逆に、もしレブロンを下して上がってきたハワードを明確に倒せれば、「現役最高選手」の名声を再び確立できるはずだ。

 レイカーズはコービーだけのチームではないが、このシリーズはコービーの歴史的評価が関わってくる大一番である。そういった意味で、今ファイナルが数十年先まで長く語り継がれていく戦いになることはすでに既定の事実なのだ。
(写真:今ファイナルはコービーのキャリアを左右するシリーズとなる)


【バイナムは真価を発揮できるか】

 まだ日本での知名度は今ひとつかもしれないが、21歳のアンドリュー・バイナムはレイカーズの次代を担うと言われる期待の大型ビッグマンである。
 2005年のドラフトで1巡目10位指名を受けてNBA入り。以降は莫大なポテンシャルを随所に垣間見せながらも、度重なる故障に常に悩まされてきた。

そのバイナムが、今ファイナルでは重要な役割を担うことになる。同じポジション同士でマッチアップするなら、彼は相手の大黒柱ハワードと真っ向からやり合わねばならないのだ。

 攻撃センスではハワードよりも上のバイナムだが、現時点で強さとパワーで圧倒的に劣る。もちろんポウ・ガソル、ラマー・オドムらベテランたちから助けを得るだろうが、いずれにしても先発センターのバイナムがハワードにまったく歯が立たないようであれば、レイカーズにとって非常に苦しい展開となるはずだ。
(写真:ポウ・ガソルは若手バイナムをサポートせねばならない)

 未完の大器・バイナムはこの大舞台で一皮むけて、1学年上の先輩ビッグマン・ハワードを慌てさせることができるかどうか。難しい仕事だが、もし成し遂げればバイナムにも待望のスター街道突入が見えてくる。


【ネルソンは復帰するのか】

 ファイナル開幕を目前に控え、2月に肩を手術して以降は戦列を離れていたマジックのジャミーア・ネルソンが復帰するとの噂が流れている。
 離脱するまでのネルソンはチームリーダーとして確立し、オールスターにも初選出(結局は辞退)。何より、今季中のレイカーズ戦ではマジックが2連勝を飾っているが、その2戦ともでチーム最多得点を挙げたのがネルソンだったのだ。もしもこのアグレッシブなPGがたとえ短時間でもプレーできるなら、シリーズにまた1つ魅力的なサブプロットが加わることになる。

 まずマジックに与える精神的なプラス効果は大きいだろう。そして戦力面で考えても、スピードある小兵ガードへの対応が苦手なレイカーズ守備陣に対し、ネルソンは極めて有効なワイルドカードになりかねないのだ。


【結果予想】

 昨季もファイナルに進んだレイカーズはそこで貴重な経験を積んでいるし、さらに今シリーズはホームコートアドバンテージも手にしている。加えてコービーという切り札、フィル・ジャクソンという名将を擁している。この4つの要素が揃っているチームに対し、不利の予想は出しづらい。

 おそらく1戦ごとは力の入ったクロスゲームとなるだろう。ただ6戦か7戦でコービーとレイカーズが接戦を抜け出す展開が最も可能性が高いように思える。
 だがその一方で、今季プレーオフに入って最も成長度を感じさせるチームはマジックである。セルティックス、キャブスを連破する過程で示したのと同じ速度で、彼らがこのファイナル中にもさらに成熟していったなら……ボストン、クリーブランド、LAの3強をすべて下しての初戴冠は、マジックにとってもう決して夢物語ではない。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

※杉浦大介オフィシャルサイト スポーツ見聞録 in NY
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