2年前のオフ、FAで阪神に移籍した新井貴浩の人的補償として広島にやってきた時、まさか彼が3番を打つことになろうとは誰も予測しなかったに違いない。
 5月24日の埼玉西武戦から、赤松真人が広島の3番に座っている。貧打の広島にとっては窮余の一策だ。
 3番に座ってからの赤松の打撃成績は30打数9安打の3割、1本塁打、5打点(6月4日現在)。よくやっている方だ。

 赤松の最大の魅力は守備範囲の広さだ。俊足をいかしてセンターを中心に、左中間、右中間までカバーする。
 監督のマーティ・ブラウンも「彼は打たなくても足や守備で貢献できる」と絶大な信頼を寄せている。
 新球場はレフト101メートル、センター122メートル、ライト100メートルとメジャーリーグ級のサイズを誇る。新球場に本拠地を移した今季、「センター赤松」は開幕前から約束されていた。

 しかしバッティングの方はお世辞にも「うまい!」とは言えない。セーフティバントを得意とするため、一見、器用なイメージがあるが、エンドランや走者を進める右方向へのバッティングは上手ではない。
 あの極端なオープンスタンスも感心しない。胸元に速いボールを配されたら、裁き切れないのではないか。最近は打つ瞬間、素早くスクエアに戻しているが、どうにも不器用な印象がある。

 かつてヤクルトの八重樫幸雄(現スカウト)がオープンスタンスにして成功した例があるが、彼には特別な理由があった。眼鏡をかけていたため、普通の構えだとフレームの中にピッチャーの姿がおさまりきらなかったのだ。
 以前、八重樫から聞いた話。
「それで当時、打撃コーチをしていた中西太さんに相談したところ、“それだったら思い切って顔をピッチャーに向けてみろ。格好なんか気にするな”と」
 これが、左足を極端に引き、バットを肩に担ぐ、独特なフォームの“誕生秘話”である。

 赤松に話を戻そう。彼には八重樫にはない武器がある。50メートルを5秒6で走る足だ。
 だが、その足を生かし切っているとは思えない。「バッティングが淡白」という話を、あちこちで耳にする。
 その証拠が3割9厘という低い出塁率だ。これは規定打席に達している選手の中では上から25番目。打てないのならせめて四球を多くとるなど、もっと打席での粘りを見せて欲しい。
 阪神時代、赤松がライバル視しながら、結局、勝てなかった相手である赤星憲広の打率は2割5分8厘と、打率では赤松の方が上回っているが、出塁率は先述したように赤松が3割9厘に対し、赤星は3割1分8厘。このあたりに赤星からポジションを奪えなかった要因がありそうだ。
 本人も語っているように赤松は3番打者ではなく「3番目の打者」である。4番の栗原健太にどうつなぐか。俊足を生かした新しい3番打者像を模索して欲しい。

<この原稿は2009年6月21日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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