二宮: 日本代表についてお聞きしたいと思います。僕は例の1998年ワールドカップ(以下W杯)で岡田(武史)さん(元代表監督)が北澤さんとカズ選手を落選させた時に疑問を呈しました。果たしてこのやり方がベターなのかと。
北澤: ありがとうございます。
二宮: 内心はどうでしたか?
北澤: 目指してきたものがそこにあって、予選中も、そういう話をしてきたし。(落選を告げられた時は)どう考えていいかわかんなかったです。

二宮: 岡田さんは変わりましたか?
北澤: 印象的にはコーチの時とだいぶ変わりました。この前のキリンカップ(99年6月)の時には、僕が途中出場した瞬間に帰ったらしいですよ。

二宮: 何でですか?
北澤: 混むから早めに出ただけかもしれないですけど、パッと立ち上がって帰ったらしいです。

二宮: なんとなく世間は「監督の立場は辛いんだから」って同情する傾向がありましたね。
北澤: 本音を言えないというか、言わない方がいいっていう選手の状況も今後は考えていかなきゃいけないと思いますね。代表から落とされたことで潰れる人もいると思うし。僕はそうやって潰されるのは嫌だし、シャクにさわりますから、サッカーをやり続けるしかないって思っています。

 W杯はテレビの音を消して見た

二宮: 南米選手権の代表候補にトルシエ監督から選ばれた時も、実際の遠征の時は北澤さんの名前がなくなりました。
北澤: なかなか他には味わえない体験をしているなと思います。

二宮: 南米選手権はテレビでご覧になりましたか?
北澤: 見ました。南米の選手からどういうプレッシャーを受けるのか、経験したかったです。代表メンバーに残りたかったというよりも、そっちの気持ちのほうが強かったですね。

二宮: ここ数年、いろいろありましたね。
北澤: 「またかよ」って感じで、笑っちゃいますよ。

二宮: サッカー選手はずっと修行なんですね(笑)。
北澤: 修行ですよ。キツイことの方が多いです。ツライとかあまり夢がなくなるようなことを僕らが言ってもしょうがないですけど。

二宮: いちいち一喜一憂していたら、いつ死刑台が待っているかわからない。
北澤: そういうことを忘れずに、かつドンドン気持ちを切り換えていかないとやっていられないですよ。

二宮: 精神的に強くなるでしょうね。
北澤: 一生懸命やっているから逆におもしろいなって思いますよ。

二宮: 一生懸命やっているからこそ報われる。でもここまでやって報われなかったら、普通の人は妥協しますよね。
北澤: だから自分自身で喜びを発見していくしかないんです。評価をする人は全部外で、監督が選ぶ人間、点数つける人間、それを評価する人間がいる。人と人だから嫌われている人間もいるだろうし、僕のこと嫌いな人間は良くは言わないだろうし。そのことばかり気にしていたら切られた時にショックがでかすぎるから。自分の中ではせめて良いイメージを膨らませていかないといけない。

二宮: 人間が一生かかってするような修行を2、3年でまとめて体験したんじゃないですか?
北澤: ここ何年かでね。W杯のことはかなり引きずったし、結構(精神的に)きていますね。

二宮: あの時、W杯の試合はテレビとかで見られましたか?
北澤: 最初は見ないようにと思って海外へ行っていたんです。でも、逃げたらおかしい、やっぱり見るべきだと思ってテレビの音は消して見てました。

二宮: 家族がいるってことは救われませんでしたか?
北澤: 救われるというより、申し訳なかったと思いますよね。妻にしても両親にしても周りの人にしても、あまりにも僕以上に悲しんでいる人が多かったから。今回(代表に)1回入った時に、みんな喜んでくれた。まずはそれでよかったかなと思ったんです。

 ドーハの悲劇は采配ミス

二宮: 1994年W杯のアジア地区最終予選、いわゆる“ドーハの悲劇”の時も北澤さんは日本代表でした。非常に魅力的ないいチームでした。
北澤: そうですね。みんな人が良かったし、本当にいいチームでした。

二宮: いろんなタイプの人間が寄せ集まっていましたよね。ラモス選手や柱谷哲二選手とかはズケズケ言うけれど腹割って話すし、森保一選手なんて最初は誰もどのチームの選手か知らなかった(笑)
北澤: みんながいい感じで影響を受けあったんじゃないかと思いますよ。

二宮: そのイラク戦、最後2人交代した時に福田(正博)選手と武田(修宏)選手が入りましたよね。僕は、オフト監督はいい指導者なんだけど勝負弱いなって思ったんです。結果論じゃなく、あそこでは北澤さんでしょう。ボールもキープできるし……。
 その時、ベンチでどういう気持ちでしたか?
北澤: 絶対呼ばれると思っていたから「オイ!」って感じでした。なんで使わないのかなって……。
 僕はピンチの状況って結構、好きなんです。韓国戦で使ってもらった時も、負けたら終わりっていうピンチ。でも、試合に出て勝ったんですよ。

二宮: 切羽詰った時に人間って勝負強いか、勝負弱いかが出ますよね。
北澤: でもオフトに自分がそこまで信用されていなかったのは反省材料です。ただ、良かったのは、周りの人が今のように「俺が出ていたら勝っていたよ」って言ってくれることです。自分にそう言われる価値があるということは今でも喜びを感じます。

二宮: あの采配はやはりオフト監督のミスと言わざるを得ませんね。
北澤: でも、ハッキリ言うと批判されますから、マスコミも言いにくいでしょう。

二宮: それにしても、例の代表落ちの時といい、北澤さんは“修行”が多い(笑)。
北澤: ホント、そっちのほうが多いですね(笑)。

(最終回につづく)
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<この記事は1999年7月に行われたインタビューを構成し、00年1月に掲載されたものです>
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