貧打の東北楽天にあって、ひとり気を吐いているのが4番の草野大輔である。打率3割6分8厘で、目下、首位打者。柔らかいフォームで広角に打ち分ける熟達の技術は篠塚和典(現巨人打撃コーチ)張りだ。「似ている? そう言ってもらえると嬉しい。だって子どもの頃は篠塚さんの大ファンで真似ばっかりしてましたもん」。野球小僧のような口ぶりで、そう言った。
 辛口で鳴る野村克也監督さえもが「アイツは天才」と一目置く。「“オレとオマエじゃバッティングに対する考え方が違う。だから話ができない”と言われています」と草野。それこそ最上の褒め言葉だろう。そして、こう続けた。「社会人時代、コーチ研修で篠塚さんが招かれ、“打撃練習では何でも打て。そして芯に当てる練習をしろ”と。次に野村さんが招かれ“打撃練習ではここの枠から外は打つな!”と。両方の話を聞いて“あぁ、オレは篠塚派だな”と思ったものです」

 野村監督にも訊いた。「草野にシンキングベースボールを教えても無理でしょう。かえって個性を殺しちゃう。ああいうタイプは自由にやらせておくほうがいい。だから彼には言っているんです。“草野、オマエはミーティングに来なくてもいいぞ”と」。野球の基礎知識は授けても鋳型にははめないのが野村流だ。まさに「人を見て法を説け」。
 草野は大学生・社会人ドラフト8巡目の入団(2005年)。しかも入団時の年齢は29歳。身長は170センチと小柄。誰がここまでの活躍を予想できただろう。

 5、6年前のことだ。あるスカウトに訊いたことがある。「なぜあれほどの技術を持った選手をプロは獲らないんですか?」。フフンと鼻を鳴らして、そのスカウトは言った。「社会人では活躍できてもプロでは使えない選手。足が速いわけでもなければ特段、遠くへ飛ばせる力もない。しかも彼には女房も子供もいる。社会人でこのまま安定した生活を送らせてやったほうが本人のためにもなるんですよ」。危うく貴重な才能が肥後の地に埋もれたまま“消費期限切れ”を迎えてしまうところだった。

 金属バットの弊害で「社会人出身のスラッガーはプロでは使えない」と言われた時代もあったが、それももう過去の話。探せば社会人球界にはまだ第二、第三の草野がいるのではないか。列島は都市対抗予選たけなわである。

<この原稿は09年6月24日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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