今年の交流戦は福岡ソフトバンクの連覇で幕を閉じました。これで交流戦が導入されて以降、5年連続でパ・リーグのチームが優勝したことになりましたね。しかも、ソフトバンクは史上初めてセ・リーグの全6球団から勝ち越す完全優勝を達成しました。交流戦で貯金を増やしたソフトバンクは、リーグでも北海道日本ハムと並んで首位に立ちました。ペナントレースは明日26日から再開します。果たして、ソフトバンクが交流戦の勢いそのままに突っ走るのでしょうか。それとも他球団が追い上げてくるのでしょうか。どんな展開になるのか、非常に楽しみです。
 一方、セ・リーグは4年連続で交流戦の優勝を逃したものの、6球団あわせての勝敗では初めてパ・リーグに勝ち越しました。特に最後を7連勝で飾った東京ヤクルトの勢いは凄まじいですね。リーグでも首位・巨人にわずか2ゲーム差にまで迫っています。交流戦終盤に右足首を痛めた青木宣親もどうやら明日からの試合には間に合うようですし、ぜひ注目したいですね。

 さて、なかなか調子が上向かないのがリーグ最下位に陥っている横浜です。若い選手も多く、チームづくりの最中ということもあるのでしょうが、昨季から続く長いトンネルから未だ抜けられていません。先月には大矢明彦前監督が事実上の解任という事態も起きてしまいました。田代富雄代理監督が引き継いだわけですが、苦しいチーム状態はなおも続いています。

 そんな中、大ベテランの投手がチームのために自分の役割を全うしようと奮闘しています。現役最年長、46歳の工藤公康投手です。プロ入り以来、先発投手として活躍してきた工藤投手ですが、昨季は大半をファームで過ごし、結局1勝も挙げることができませんでした。復活を狙った今季も初先発の巨人戦で5回8失点で降板。そのままファームでの調整を余儀なくされました。

 その工藤投手に首脳陣が出した答えは中継ぎへの転向でした。調整登板を除けば、工藤投手が中継ぎとして投げるのは西武時代の1989年以来、実に20年ぶり。現役最多の223勝を挙げているベテランといえば、先発へのこだわりが強くてもおかしくないのですが、工藤投手はすんなりと受け入れたようですね。やはり個人的なことよりも、チームを一番に考えているのでしょう。ポジションにこだわるのではなく、「チームの戦力になりたい」という気持ちが強いからこそ、嫌な顔一つせずやっているのだと思います。

 さて、同じ投手といっても、先発と中継ぎとではタイプが全く違います。先発は周知の通り、試合をつくることが仕事です。ですから、一人ひとりの打者との対戦を楽しむタイプといっていいでしょう。一方、中継ぎ、特にセットアッパーはゲームをコントロールすることが要求されます。僅差でどちらに転ぶかわからない状況の中で投入されるわけですから、自分の投球によってゲームの流れがガラリと変わるわけです。プレッシャーはかかりますが、それがセットアッパーの醍醐味でもありますから「絶対にこのバッターを抑えてやるぞ」という強い気持ちが必要なのです。

 当然、肩のつくり方も異なります。先発投手なら投げることが決まっているわけですから、自分のタイミングでできますし、40球、50球という球数を投げ、時間をかけてつくることができます。しかし、中継ぎはそうはいきません。なるべく少ない球数で早めに肩をつくることが前提となるわけです。しかも、試合の展開によってですが、連投は当たり前、毎日のように肩をつくらなければいけないわけですから、翌日に疲労を持ち越さないことも重要です。
 
 また、ピッチングとしては状況に応じて併殺打を狙ったり、打者が外野への犠飛を狙っている場面では、ゴロを打たせるようにしなければなりません。ですから、先発や抑え以上に正確なコントロールが必要となります。また、同じコースに複数の球種を投げられることも重要です。

 その点、工藤投手はストレート、カーブ、スライダーとどの球種でもコントロールできますから、中継ぎとしての素質は申し分ありません。また、中継ぎ転向後には新たにシュートをマスターしたようですね。おそらく先発のときとは違うかたちをつくりあげたかったのでしょう。タイミングをずらし、芯を外すにはシュートのような力のある変化球は非常に有効です。

 不安点をあげるとしたら、やはりコンディションでしょう。この打者にヒットを与えたら流れが相手にもっていかれるような、そんな緊迫した場面で投入されるセットアッパーにごまかしは一切ききません。調子が悪ければ、そのまま結果として出てしまいます。ですから、いいコンディションを保つことが必要です。これさえクリアできれば、工藤投手は今までにはいないようなセットアッパーになる。私はそんな気がしてなりません。果たして今後、どのようなピッチングを見せてくれるのか。そしてチームにどんな影響をもたらすのか。ぜひ、“中年の星”として輝いてほしいですね。


佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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