プロ野球のペナントレースも前半戦が終わり、ちょうど折り返し地点にきています。現在、セ・リーグは巨人が首位をキープしています。しかし、8連勝で前半戦を締めくくった2位・中日が2.5ゲーム差にまで詰め寄ってきました。後半戦は激しい優勝争いが期待できそうですね。一方、パ・リーグは北海道日本ハムと福岡ソフトバンクのデットヒートが繰り広げられています。日本ハムが首位で折り返したものの、こちらはなんとわずか1ゲーム差。後半戦2カード目には直接対決があり、おもしろい展開となりそうです。野球ファンとしては、セ・パ両リーグともに後半戦も大いに楽しめそうですね。
 さて、今年は3月に開催されたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の影響が、プロ野球のみならず、メジャーリーグでも話題を呼んでいます。メジャー開幕直前にはイチロー(マリナーズ)が胃潰瘍となり、初めて故障者リスト(DL)入り。結局、開幕には間に合うことができませんでした。そして松坂大輔(レッドソックス)が右肩の不調を訴え、2度のDL入りをしてしまいました。現在はフロリダ州のキャンプ地で調整をしています。一方、日本国内でも岩隈久志(東北楽天)、杉内俊哉(福岡ソフトバンク)、岩田稔(阪神)、小松聖(オリックス)といった各チームのエース級のピッチャーが前半は思うようなピッチングができずに苦しみました。

 もちろん、こうした原因が、全てWBCにあるかというと、そうとは限らないと思います。しかし、これだけWBCメンバーの故障や不調が相次げば、問題提起されるのはいたしかたのないことかもしれませんね。

 さて、そんな中、先発投手陣で開幕から戦列を離れずに好成績を残しているのがダルビッシュ有(北海道日本ハム)と涌井秀章(埼玉西武)です。同級生でもある2人は現在、仲良く揃って12勝をマーク。これは両リーグあわせてトップの数字です。

 特にダルビッシュは、WBCでも岩隈(20回)、松坂(14回)に次ぐイニング数、13回を投げました。本人のコメントにもあるように、ダルビッシュも疲労がないわけはありません。しかし、それでもこれだけ素晴しいピッチングができているのは、何より自分がチームのエースだという自覚、責任感が強いからでしょう。

 ダルビッシュは今や日本球界きってのエースと言われるまでに成長しました。ストレートは150キロ以上を誇り、変化球は実に多彩です。しかも、全球種においてコントロールもキレもある。そのため、どの球種でも空振りをとりにいくことができるのです。普通はストレートのコントロールをつけるだけでも難しいというのに……。

 東北高校時代には4度、エースとして甲子園に出場していますので、もちろんその頃から彼のピッチングは見ています。高校生で既に150キロを投げていましたから、将来性の高いピッチャーだな、とは感じていました。とはいえ、これほど早い段階で、ここまでのピッチングができるようになるとは、正直思ってもみませんでした。

 特に、変化球の豊富さには驚いています。変化球は多い方がピッチングの幅が広がりますから、どのピッチャーも練習ではいろいろと試しています。しかし、投げることはできても、ある程度、コントロールが定まらなければ実戦では投げることはできません。ですから、試した中から自分に合ったものを選択し、磨いていくのです。僕も現役時代、ひととおりの変化球を試しました。その中で選択したのがスライダーとシュートでした。ところが、ダルビッシュはスライダー、カーブから始まって、カットボール、フォークボール、スプリット、チェンジアップ、シンカー、それにストレートとツーシームを投げることができるのです。圧倒的な数に彼の非凡さを感じずにはいられません。

 では、なぜこれほどまでの球種を投げることができるのでしょうか。正直なところ、「素質」以外のなにものでもないのですが、バランスのいいフォームが関係しているのかなと思います。特に、ピッチャーの土台である下半身がしっかりと鍛えられてることが大きいですね。一見、彼は体の線が細く見えますが、入団前と比べれば一目瞭然。非常にバランスよく鍛えられています。また、関節も柔らかいので、力がしっかりとボールに伝えられているのです。上半身に関していえば、肩やヒジが柔らかいので、腕がよくしなっていますね。加えて腕が長い分、遅れて出てくるので、バッターにとってはボールが非常に見にくいのです。

 将来的にはグレッグ・マダックスのように、体力が続く限り、毎年2ケタ勝利をマークできるような投手になってもらいたいなと願っています。後期もぜひ、故障することなく、素晴しいピッチングを見せてもらいたいものです。


佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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