ニックネームは「ボンバーヘッド」。レゲエミュージシャンのような独特なヘアスタイルから受ける印象は「楽天的な個性派」。だが、その実像は?

 サッカー日本代表キャプテン中澤佑二ほど見かけと実態にギャップのあるアスリートは珍しい。
 過日、ヒザを交えて話す機会があり、高校卒業後、単身、ブラジルに渡った時の写真も一緒に持ってきてもらった。これがまじめを絵に描いたような坊主頭なのだ。
「高校の頃はサッカーのことしか考えていなかった。夜9時に寝て、朝5時に起きるという生活。朝練があるから、6時半には家を出ていました。後輩に対して“ヘラヘラしてるんだったらサッカー部なんかやめちまえ!”と怒鳴ったこともあります。実際、僕に反発して半分くらい辞めてしまった。周りが見えなくなるほどサッカーにのめり込んでいました」
 
 ところが帰国してヴェルディのテスト生になるや、アフロヘアに変身する。自分を売り込むための考えに考え抜いたすえの策だった。
「目立たないことには何も始まらない。“あの変な髪形は誰だ? 中澤というヤツか!”。こうならなくちゃチャンスは巡ってこない。それであえてボサボサ頭にしたんです」
 私も中澤の作戦にまんまと引っかかってしまった1人。たまたま見たヴェルディの練習試合で、広報担当者に「あの、人に強いDFは誰? そう、アフロヘアの彼!」などと聞いたことがある。
 
 私が思うに、どうも最近の若者は自己主張が下手だ。自らのことをわかってもらえないのなら、わかってもらえる人間とだけ付き合おうとでもいうような内向的なタイプが多い。
 わかってもらえないのなら、わからせてやる――。中澤の「ボンバーヘッド」にはこんなメッセージが込められている。あの髪型は、もうそれだけで立派なセールスプロモーションである。

(この原稿は『週刊ダイヤモンド』09年8月1日号に掲載されました)

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