勝率5割を切ったチームでも3位以内に入れば出場の権利を得られる現行のCS(クライマックス・シリーズ)制度に、真っ先に賛成する代議士がいるとすれば、きっと亀井静香郵政・金融担当相だろう。
 吹けば飛ぶような会社を営んでいる身だが、「平成の徳政令」には腰も抜かさんばかりに驚いた。中小・零細企業向けの融資や個人向け住宅ローンの返済猶予を行う「モラトリアム法案」は、どうやら金融機関への強制ではなく努力目標に落ち着きそうだが、そうだとしても、これは資本主義経済にとっては禁じ手だろう。

 早い話、お上が「借りたカネは返さなくてもいい」と宣言したようなものだ。まず何よりもモラルハザードが心配だ。「借りたカネは返す」。当たり前の教育が子供にできなくなる。続いては国民負担。退場すべき企業を救済するため、銀行に公的資金を注入する。その原資は我々の税金だ。リスク管理を緩和すれば国際社会からの信用も失うだろう。早晩、この国は統制経済色の強い社会主義国家とみなされるに違いない。

 CSのシステムも弱者救済といえば聞こえはいいが、「モラトリアム法案」同様にモラルハザードの危険性が潜んでいる。
 誤解なきよう申し上げるが、私はCS制度を頭から否定しているわけではない。今季のセ・リーグの3位争いを見れば明らかなように終盤まで中位、下位球団による激戦が続けば、自ずと消化試合も減る。それは球団経営の面からもプラスであり、ただちに廃止という選択肢はありえない。

 ただ見直しは必要だ。シーズンを負け越した球団がリーグの代表となり、日本一になればペナントレースと日本シリーズの価値が著しく低下してしまう。「最後だけ頑張ればいい」という空気が、いずれ球界に蔓延しないだろうか。

 もっとも選手たちに罪はない。5割を切ったとはいえ、せっかく手に入れた権利なのだから、東京ヤクルトの選手には胸を張って戦ってもらいたい。悪いのは制度だ。3位までに入れば借金をチャラにできる「球界版徳政令」は、レギュラーシーズンという日常の貸借関係に重きを置くプロ野球の根幹を揺るがしかねない。仮に3位に入っても、勝率5割未満の球団のCS出場権は認めない――。これでいいのではないか。コミッショナーはどうお考えか?

<この原稿は09年10月14日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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