捕手としては日本人初のメジャーリーガーとしてマリナーズで4年間活躍してきた城島健司選手が阪神への入団が決定しました。4年間優勝から遠ざかり、今シーズンは5年ぶりにBクラスに陥落した阪神。来シーズンに向けての補強課題の一つとして挙げられていたのがシーズン通して任せられる正捕手だっただけに、城島選手の加入はチームにとっては大きな影響力を及ぼしそうですね。
 私見を述べさせてもらえば、城島選手の日本球界復帰には諸手を挙げて賛成という気持ちです。というのもここ1、2年、出場機会に恵まれず、フラストレーションがたまっていたと思うからです。実際、城島選手の表情は暗かった印象があります。3月のWBCでは日本代表の正捕手としてチームの連覇に大きく貢献し、久しぶりにハツラツとした彼の姿を見ることができました。しかし、シーズンに入ってからは、再び暗い表情を浮かべることが多かったですね。

 城島選手の出場機会が減少したのは、決して彼の技術が衰えたからというわけではありません。そこには日米間の捕手に対する役割の違いがあったと思うのです。日本では捕手は投手をリードする立場にあります。ですから、城島選手も日本にいた時はキャプテンシーを発揮し、チームの要としての役割を果たしていました。しかし、米国ではあくまでも主権は投手にあります。捕手がいくら配球を考えてサインを出しても、投手は簡単に首を振ってきます。「オマエのことを信頼しているから、オマエの投げたいボールを思い切り投げてこい」というのがメジャーの捕手のスタンスなのです。

 しかも、捕手が譲らないと、わざわざプレートを外して、キャッチャーをマウンドに呼び出し、「オレの言うことを聞け!」と怒る投手だっているのです。こうした中、「オレを信じて、このボールを投げてこい」というタイプの城島選手とメジャーの投手とが折り合いがなかなかつかなかったとしても不思議ではありません。そうしたことが出場機会の減少を生んだ要因のひとつとなったのではないかと思います。

 もちろん、メジャーの他球団に移籍するという選択肢もあったでしょう。もし、その道を選んだとしたら、今の自分がメジャーでどこまで通用するのか、それを試すためのチャレンジを意味する移籍だったと思います。しかし、日本球界復帰となれば、それはもうチャレンジではありません。自分が正当な評価をされ、絶対必要な存在だと認められたうえで呼ばれなければ、復帰の意味はない。その意味でも、今季ブレイクした田上秀則のいる古巣・福岡ソフトバンクではなく、これまで正捕手として活躍してきた矢野輝弘の年齢を考えても、後を継ぐ正捕手を必要としていた阪神を選んだのは当然だったと言えるでしょう。

 さて、阪神には井川慶(ヤンキース)以降、エース不在が続いています。しかし、高いポテンシャルをもったピッチャーはたくさんいます。しかし、安藤優也にしろ福原忍にしろ、勝負どころで強気で攻められず、接戦に弱いところがあります。だからこそ、常に「オレを信じて投げてこい!」と、どんどん投手陣を盛り立ててくれる城島選手のような捕手が阪神には必要なのです。

 また、真弓明信監督が目指す野球を考えたうえでも城島選手は適任といえます。1年目の今シーズン、正直言って、真弓監督がどんな野球をしようとしているのか、もうひとつはっきりしませんでした。非常にオーソドックスでシンプルな戦いをしていたわけですが、真弓監督の話を聞いていると、どうも本当はもっとしかけて先手を打ちたいと思っている指揮官なのではないかと思うのです。そのためにもまずは、安定した投手力と堅い守りを構築しようとしているのではないかと。

 そして投手陣については現場に任せるやり方をしいていますね。そういう意味では、まさに城島選手のようなキャプテンシーあふれた捕手は適任です。真弓監督は、おそらく城島選手をプレーイングマネジャー的存在として全面的に信頼し、守備位置から配球まで彼に一任するのではないでしょうか。

 城島選手には全試合フル出場、そして打つ方でも「3割30本」が期待されていることでしょう。しかし、たとえ打率が3割に届かなくても、ホームランが20本未満だったとしても、結果以上の存在価値が城島選手にはあると思っています。その理由の一つには物怖じせずにどんどん意見を言えるところですね。これは阪神にとってチームをかえるためのカンフル剤となることでしょう。例えば、金本知憲。彼はチームから尊敬され、一目置かれたスター選手です。おそらくその金本に意見を言うことなど、ほとんどの選手ができないのではないでしょうか。しかし、金本にだってミスはあります。そんな時「金本さん、頼みますよ。あれは捕ってくださいよぉ」と城島選手なら言えると思うのです。

 それでチーム内の雰囲気が悪くなったりするようなこともないでしょう。金本の性格を考えれば、逆にどんどん言って欲しいはずです。そうすればもっともっと努力し、自分を高めていけるからです。こうした相乗効果が生まれれば、阪神はいい方向に変わっていくはずです。果たして来シーズンの阪神はどんな野球を見せてくれるのか、非常に楽しみです。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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