いよいよクライマックスが近づいてきた09シーズンのJリーグ。すでにJ1から大分トリニータ、ジェフユナイテッド千葉、柏レイソルの降格が決定した一方、ベガルタ仙台、セレッソ大阪のJ1復帰が確定しています。今季J2で圧倒的な強さを示した2クラブだけに、来季の戦いぶりが楽しみです。そして、J1優勝争いもいよいよ2クラブに絞られました。鹿島アントラーズの3連覇なるか、それとも川崎フロンターレの悲願達成なるか――。注目の大一番は今週末に開催されます。

 まずは11月28日に行なわれた前節の試合を振り返ってみましょう。鹿島はホームに3位のガンバ大阪を迎えました。試合開始前の両者の勝ち点差は3。鹿島からすると絶対に負けることだけは許されない試合でした。片やガンバにとっては首位を叩く絶好のチャンス。自力でトップに浮上する可能性もありましたから、こちらも絶対に負けてはいられない。試合開始前からカシマスタジアムは異様な緊張感に包まれていました。

 張り詰めた雰囲気の中で始まった試合は立ち上がりから緊迫していました。前半はお互いに決定的な場面を迎えながらも無得点でしたが、内容はスコア以上に中身の濃いものでした。ハーフタイムを挟み後半11分に興梠慎三のゴールが決まるまで主導権がどちらに転ぶか全く分からない、息の詰まる展開でした。1点目のゴール直後には野沢拓也の技ありループが決まると、鹿島は自分たちのリズムでプレーできるかと思いましたが、すぐ2分後に二川孝広に1点を返されました。2対0から2対1へ。これはサッカーで逆転を許すことの多い最も危険なパターンです。二川のシュートには4人の鹿島DFが体を寄せていましたが、どうにも気持ちに隙があったように思えてなりません。なにか鹿島の今シーズンを象徴しているかのような失点でしたね。

 それでも1点差に詰め寄られてからさらに2分後、再び興梠がニアサイドのクロスにあわせて、ダメ押し点を挙げたところで勝負あったと言えるでしょう。ガンバは攻撃に出ようと3トップにしたところでルーカスが退場してしまったのが痛かった。あのレッドカードさえなければ優勝の行方はどうなるかわからなかった。厳しいアウェーの環境で強気の采配を揮った西野朗監督でしたが、この日はルーカスの退場で苦境を打破するには至りませんでしたね。

 一方、同時刻にホームで新潟と戦った川崎は相手の堅守に苦しみながらも1対0の最小得点差で勝ち点3をもぎ取りました。鄭大世が後半25分に勝ち越し点を決めましたが、優勝争いをする上で、軸となるFWが得点を取ってくれるのは非常に大きい。鄭といい興梠といい、ここぞという時にいい仕事をしていますね。

 前回のコラムで31節、32節が優勝の行方を大きく左右するとお話しましたが、清水エスパルスとFC東京がまさかの連敗で大きく順位を下げてしまいました。両クラブにいえることは、主力に若い選手が多いということと優勝を争った経験がないということ。やはり土壇場に来てモノをいうのは経験です。清水とFC東京はこの敗戦を糧に、来季も奮闘を期待したいところです。

 最終節は鹿島が浦和レッズと、川崎は柏とそれぞれアウェーで戦います。勝ち点差はわずかに2。得失点差では川崎が有利ですから、川崎が勝ち点3を加えた場合、鹿島は引き分けでは優勝を逃がすことになります。つまり、最終節も両者にとっても負けられない戦いになるわけです。

 夏場に大きく失速した鹿島も現在は4連勝と昇り調子ですし、川崎も32節で最下位・大分から痛い黒星を喫したものの、リーグ戦ここ7試合で6勝1敗と好調をキープしています。最終節までくればホームもアウェーも関係ありません。とにかく自分たちのサッカーをピッチ上に表現して勝ち点3を奪うこと。このシンプルな目標に対してどれだけ集中できるか。そこが優勝を手に出来るか否かの境目となるでしょう。12月5日、15時半に同時キックオフされるJ1最終節。まさに見逃せない戦いになりそうです。

<一定の評価はできる南アフリカ遠征>

 日本代表に目を向けると、9、10月に続いて国際Aマッチが行なわれました。14日の南アフリカ戦と18日の香港戦、2試合ともアウェー戦でした。まずは初戦、W杯本番に向けて貴重な機会となった南アフリカ戦はスコアレスドローに終わりました。

 この試合の評価ですが、私は決して悪い試合ではなかったように思います。まず、守備陣に大きな破綻がなかったことは評価できます。調子を落としているとはいえ、身体能力に優れた南アフリカFW陣に対し、決定的な場面をほとんど作らせなかったことは素晴らしい。後半に一度、相手FWとGKが1対1になる場面もありましたが、川島永嗣(川崎F)の落ち着いたセーブで事なきを得ました。オランダ遠征で悔しい想いをしたDF陣がアウェーでの戦いで修正すべきところを修正できていた。これは大きな収穫です。

 さらにDFラインで徳永悠平(F東京)という新しい選手を試すことができた。これも成果といえるでしょう。DFラインは常に連動しながら仕事をしますから、どうしても固定したメンバーになりがちです。そんな中、両サイドとも器用にこなすことができる徳永が計算できるのは岡田武史監督にとって一気に2人の選手が増えたようなものです。遠征の2試合を無失点で切り抜けたことで、DF陣の大きな自信にもつながっていることでしょう。

 課題を挙げるとすれば攻撃のバリエーションの少なさでしょうか。サイドからの攻撃にはある程度の形が見えたように感じますが、それ以外ではまだまだ攻め手が見えません。コンディション不良でフル出場が叶わなかった中村俊輔(エスパニョール)や、直前で負傷したため代表を辞退した中村憲剛(川崎F)の不在がとても大きく感じられました。つまりパサーがいなければ、攻撃の形が見えないということです。

 たとえば、DFとDFの間からゴール前に飛び出していく選手がいません。ゴール前でボールを持って危険な香りのする選手が見当たらないのです。岡崎慎司(清水)という核ができあがりつつあるわけですから、今後は本大会までに新たな才能を発掘して、パスが出なくても自分の力である程度ゴール前で仕事のできる選手を試してもらいたい。そういう選手は現在代表に選出されている選手以外にも、まだいるはずです。本大会まで残り7カ月を切っていますが、本番ギリギリまで世界の舞台で戦える選手を見つけ出す努力を続けていく必要があると思います。

 もうひとつ、代表戦で気になった点があります。それは香港戦でのスロースタートぶり。これは日本代表に限った話ではなく、ACLでも度々見受けられたことですが、どうも日本人のサッカーは相手なりにこなしてしまう印象が拭えません。強い相手と対峙した時は気持ちの入ったプレーで善戦しますが、自分たちよりも力の落ちる相手をねじ伏せてやるという気迫が足りないことが多くあります。香港戦での前半がまさにそれ。25分に長谷部誠(ヴォルフスブルク)がミドルシュートを叩き込んだところからは一方的な展開になりましたが、0対0の時点ではホームの声援に後押しされた香港に押される場面も少なくありませんでした。どんな試合でもチャレンジャーの気持ちを忘れず全力で戦わなければ代表強化にも繋がりません。W杯では楽な試合は一つもないでしょう。それを念頭に入れ、代表選手たちには気持ちの入ったプレーを見せてもらいたいですね。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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