球春到来――今月1日からプロ野球では12球団一斉に春季キャンプがスタートしました。20日からはオープン戦が始まり、いよいよ実戦モードに突入です。今年はスタートから天候に恵まれず、苦労した球団も多かったようです。そのため、練習環境の違いによって仕上がり具合の差も出てきています。開幕はパ・リーグが3月20日、セ・リーグが26日。どちらも1カ月を切っているだけに、これからの調整が重要になってくるでしょう。
 今回、私がキャンプ地を訪れたのはセ・リーグは中日、阪神、横浜、パ・リーグは北海道日本ハムの4球団です。まず、中日ですが、今年は例年以上に投手陣の仕上がりの早さが目立ちました。第1クールからもう既に主力投手が打撃投手を務めていたのです。私が同球団の沖縄キャンプに訪れたのは8日だったのですが、ベテラン山本昌が打撃投手をしているので驚いていると、聞けばもう既にこの日が2回目の登板。なんと、キャンプ初日から中田賢一、2日目には山本昌のほか、岩瀬仁紀、チェン、吉見一起らが投げていたというのです。

 昨シーズン、セ・リーグは巨人がリーグ3連覇を果たしました。クライマックスシリーズでも2年連続で巨人が勝利し、中日は日本シリーズに進出することができていません。選手にはそうした悔しさを糧にし、今年にかける強い思いがあるのでしょう。中日は今年から早出や特打ちは自己申告制にし、自主性を重んじています。そうしたことも相まって、選手個々が高い目的意識を持って取り組んでいるように見えました。

 なかでも山本昌の仕上がりの良さには驚きを隠せませんでした。彼は今年プロ25年目の44歳。現役では今年16年ぶりに古巣に復帰した工藤公康(埼玉西武)に次ぐ高齢です。それでも、8日の時点でしっかりと強いボールを投げていました。決して調整ではなく、すぐにでも実戦で投げられるのではないかというほどの仕上がり具合だったのです。彼のこうした姿を見ても、今シーズンの中日は“投手王国”の名にふさわしい戦いが期待できそうです。

 沖縄・宜野座で行われていた阪神のキャンプにも行ってきました。やはり最大の注目はMLBマリナーズから移籍した城島健司でしょう。テレビや新聞でも彼の加入でチームが活性化している内容が報道されていますね。実際に足を運んでみると、意外にも落ち着いた雰囲気で行われていました。よくいえば“大人のキャンプ”というところでしょうか。しかし、僕にとっては少々物足りない感じがしました。確かに今シーズンから新選手会長となった鳥谷敬などはチームを盛り上げようと元気いっぱいにやっていました。しかし、首脳陣にアピールするためにも最もハツラツとした姿を見せなければならないはずの若手に声が出ていなかったのが非常に残念でした。もちろん、真面目に黙々と練習に励んでいるのですが、もう少し活気が欲しいなと感じたキャンプでした。

 2年連続最下位、4年連続Bクラスと低迷が続く横浜は、尾花高夫新監督のもと、「昨年までのチームとは違うぞ」という意気込みが感じられました。横浜は昨オフ、千葉ロッテから清水直行、さらには日本ハムと大型トレードに踏み切り、坂元弥太郎、松山傑の両投手と稲田直人を獲得。チーム再建のために積極的に新しい血を入れ、活性化を図ろうとしています。まだ、新チームがスタートしたばかりですから、尾花監督から勝つための知識・技術を吸収するというよりは、新指揮官の出方を探っている段階という印象を受けました。発展途上のチームだけに、尾花監督がこれからどうチームを作り上げ、開幕を迎えるのか楽しみでもあります。

 昨季パ・リーグの覇者、日本ハムはダルビッシュ有をはじめ、スター選手が多く、人気球団。それだけに毎年キャンプは盛り上がります。しかし先述したように、今年は悪天候の日が多かった。それだけに室内練習場の設備が非常に重要だったのですが、日本ハムのキャンプ地・名護市営球場の室内練習場は決して充実しているとは言えません。そのため、特に野手陣の守備面でチームプレーが思うようにできなかったように思います。今シーズンのパは昨年よりも2週間も早いこともあり、調整の遅れが心配されます。これから実戦を通してペースを上げていくことが重要でしょう。

 さて、今シーズンのペナントレースはいったいどんなドラマが待ち受けているのでしょうか。もちろん、優勝の行方にも注目していますが、私としては新たなスター選手が誕生してほしいなと思っています。というのも、今シーズンは松井秀喜がヤンキースからエンゼルスに移籍し、非常に注目されています。開幕すれば、さらに報道の割合は多くなることでしょう。ですから、日本のプロ野球も松井秀に負けないくらいの話題性が不可欠です。

 特にセ・リーグに注目選手が出てくるとおもしろいですね。現在、日本を代表する選手といえば、パ・リーグの選手が多くを占めています。特にピッチャーはダルビッシュ、岩隈久志、田中将大(ともに東北楽天)、涌井秀章(埼玉西武)とパのピッチャーの名前ばかりがあがります。ですから、セ・リーグに彼らに匹敵するような選手が現れることで、日本のプロ野球がさらに盛り上がってほしいものです。


佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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