桜の開花とともに、今年も待ちに待った野球シーズンがスタートする。今年はパ・リーグが20日、セ・リーグが26日の開幕だ。パは昨季、東北楽天が2位に躍進したように、各球団の戦力差はわずか。秋まで目の離せない展開になるだろう。一方のセは、リーグ3連覇中の巨人の強さが際立っており、他の5球団がいかに待ったをかけるのかが焦点となる。セ・パ両リーグの注目チーム、選手にスポットを当ててみたい。

 西村ロッテ、脱ボビー流の成果は? 

 パ・リーグは楽天がマーティ・ブラウン、千葉ロッテが西村徳文、オリックスが岡田彰布と3人の新監督が誕生した。中でも大きくスタイルが変わったのが、昨季5位に沈んだロッテだろう。前任のボビー・バレンタイン監督は「(ハードな練習は)選手を鍛えているのではなく壊している」と、日本流の投げ込みや猛特訓を否定していた。バレンタインの下でヘッドコーチを務めていた西村だが、現役時代はスイッチヒッターに転向し、まさに血のにじむような努力で首位打者(1990年)や盗塁王(86〜89年)を獲得した「叩き上げの男」だ。内心は忸怩たるものがあったのではないか。

 監督に就任するやいなや、“脱ボビー流”を掲げた。春のキャンプでは1日20分の時間制限を撤廃し、投手陣に期間中で2000球の投げ込みを命じた。4年目の飛躍が期待される右腕の大嶺祐太は計2366球を投げ、「投げるスタミナがついた」と自信を深めている。

 日本一に輝いた2005年は、西岡剛、今江敏晃ら、若手の台頭が目立った。5年ぶりの覇権奪回には下からの突き上げがほしいところだ。
「ここ2、3年はファームが機能していなかったですね。やはり1軍同様の練習スタイルをとってきたことで、量が不足していたのかもしれません」
 そんな指揮官の反省から、2軍監督には元広島の高橋慶彦を据えた。高橋も現役時代は文字通り“練習の虫”だった。カープ黄金期のトップバッターを務め、勝つために何をすべきかを誰よりも熟知している。
「秋のキャンプで2軍の練習も見ましたが、アップから厳しいメニューを課していました。一昔前に戻ったような練習風景でした」

 新監督の改革は練習だけにとどまらない。作戦面でも、前任者が採用していた日替わりオーダーからの脱却を明言している。
「9番を打っていた選手が次の日は急に2番を打たされる。“えっ、それはちょっと……”というとまどいが選手たちにはありました。たとえば2番という打順はバントをしたり、つなぎ役もこなさなくてはいけないのですが、そこに小技が得意でない選手が入るケースが多かった」

 オープン戦を通じて、1番・西岡、3番・井口資仁、4番は昨年のWBC韓国代表の金泰均という2010年のオーダーがはっきり見えてきた。つなぎ役の2番にはルーキー荻野貴司が割って入りそうだ。抑えに転向した小林宏之の離脱は痛いが、もともと優勝してもおかしくない戦力は有している。ロッテ一筋の50歳がチームにどんな変化をもたらせるのか。その戦い如何で、パ・リーグの順位は大きく変動するだろう。

 3割、30本塁打を狙える小谷野

 選手では楽天のエース岩隈久志に注目したい。岩隈は昨季、WBCの疲労もあって前半は明らかにペースを抑えていた。いつも100球前後で降板を申し出たため、野村克也前監督から「エースがあれじゃ困るよ」と酷評されていた。ただ後半になって調子を上げ、オールスター以後は7勝1敗。チームを初のクライマックスシリーズ出場に導いた。

 チームの模範として先発完投を要求していた野村と、シーズンを通してのピッチングを考えていた岩隈。そこには野球哲学の違いがあった。ある試合で完投勝利をあげた後のヒーローインタビューで「完投がはやっているみたいなので」と語ったのは、本人曰く、指揮官に対する「ささやかな抵抗」だった。

 その点、楽天の新監督に就任したブラウンは、岩隈に考え方が近い。基本的に先発の役割は6、7回まで試合をつくること。球数が多ければ、好投していてもスパッとリリーバーにスイッチする。彼にとっては、昨年以上に力を発揮しやすいタイプの指揮官ではないか。昨季は1試合に4本塁打を浴びるなど、打たれるケースも目立ったが、「体全体が沈んでいて、リリースの位置が低かった」と本人は原因を把握できている。21勝をあげた一昨年に近い数字を残せば、自身が口にしていた「てっぺん」も見えてくるはずだ。

 リーグ連覇を目指す日本ハムのキーマンは小谷野栄一だろう。昨季は自己最高となる打率.296、11本塁打、82打点の成績を残した。今季は大砲のスレッジが抜けたため、その打撃により期待が高まる。彼は体格に似合わず、インコースの対応がうまい。それもそのはず、インコース打ちの名人と言われた故・山内一弘さんに指導を受けていたのだ。

「普通、インコースの球は体に近いので、スピードを感じやすく、つい力んでスイングしてしまう。山内さんに言われたのは“とにかく力を抜け”。言葉にするのは難しいのですが、ボールを飛ばしてやろうと力むのではなく、ボールの勢いを使って“飛んでけー!”という感じで打つことを教わりました」

 彼の打撃は西鉄で強打者として鳴らした中西太から太鼓判を押されている。
「去年、ディーバッティングをしていると、中西さんが突然いらして、“オマエ、1年間、その打ち方を絶対に続けろよ”と言ってくださいました」
 中西といえば若松勉、掛布雅之、岩村明憲(パイレーツ)ら多くの好打者を育てた名コーチとしても有名だ。日本球界の2大打撃コーチとも言える山内と中西から教わった技術は確かなものがある。私見だが3割、30本塁打、100打点を狙える打者だと見ている。

 横浜・尾花丸を支える球団の本気度

 セは、昨季最下位の横浜が尾花高夫を、5位の広島が野村謙二郎を新監督に迎えた。旋風を巻き起こしそうなのは、2年連続でダントツ最下位だった横浜だろう。尾花は投手コーチとして、千葉ロッテ、ヤクルト、福岡ダイエー(現ソフトバンク)、巨人の4球団を渡り歩き、7度のリーグ優勝と4度の日本一に貢献した。指揮官としての手腕は未知数だが、データに基づいた投手指導には定評がある。昨季までコーチとして在籍した巨人でも就任1年で前年(2005年)は4.80だったチーム防御率を3.65まで改善した。昨季の防御率は驚異の2点台(2.94)だった。
 
 翻って横浜のチーム防御率は昨季、リーグワーストの4.36。与えた四球も425で、巨人と比べれば80個以上も多い。
「四球の原因は主に2つあります。ひとつは技術的に未熟であること。これはブルペンでストライクを投げさせる練習をすることによってしか解決しない。2つ目はメンタル的な理由。ピッチャーは“打てるもんなら打ってみろ!”と腹をくくって投げなければいけない時がある。それを避けていたのでは、いつまでたっても上達しない。どうも横浜のピッチャーには、勝負する前に負けているようなところがあった。これでは話にならない」

 理路整然とした語り口だが、その中身は本質を突いている。オープン戦ではなかなか白星に恵まれていないものの、新監督が掲げる「アナライジング・ベースボール(分析野球)」の方向性は誤りではない。1年ですぐに結果を求めるのは酷かもしれないが、徐々にチームは上昇カーブを描くだろう。

 というのも、今季の横浜には球団の姿勢に“本気度”を感じるからだ。このオフはFAでロッテの捕手・橋本将を獲得し、同じくロッテから先発の柱として清水直行をトレードで補強した。日本ハムからは大砲のスレッジも入団した。尾花自身、「球団が本気だから僕は監督を引き受けたんです。加地隆雄新社長と会って、本当に勝ちたいんだという気持ちが伝わってきた」と就任要請を受諾した理由を明かしている。

 歴史を振り返ってみると、投手出身の名監督はあまり多くない。強いて言えば、巨人を4回のリーグ優勝、2度の日本一に導いた藤田元司くらいか。その理由を捕手出身の楽天・野村前監督は「投手出身者は視野が狭いからだろう」と分析していた。確かに投手は試合中、目の前の打者と勝負することに全力を注ぐ。捕手のように打者の様子や内外野の守備隊形、相手ベンチの動きまで、細かく目を光らせているわけではない。その違いが采配に影響するとの見方は、一理あるだろう。

 ただ尾花に関して言えば、選手、コーチ時代、前述の野村はもちろん、広岡達朗、ボビー・バレンタイン、王貞治といった指揮官の下で野球を勉強している。これは大きなアドバンテージだ。実績も個性もある。最下位球団の再建は難事業だが、球界のジンクスを打ち破るような成果を期待したい。

 強力・巨人打線vs.小さな大投手・石川

 リーグ4連覇を狙う巨人は開幕カードで東京ヤクルトをホームで迎え撃つ。ヤクルトの開幕投手はサウスポーの石川雅規が濃厚だ。この両者の対決は今シーズンを占う一戦になるとみている。

 石川は4勝に終わった2007年、シュートを覚えて復活した。この年、シーズン終盤の巨人戦でプロ6年目にして初完封勝利をあげている。
「最後のバッターが(左の)小笠原道大さんだったんです。僕はそれまで小笠原さんを苦手にしていた。でも、このゲームでは1本もヒットを打たれていないはずです。最後の打席もシュートを意識して外のスライダーを引っかけてくれた。シュートがあるとスライダーもいきてくるんだということがよくわかりました」
 ここでつかんだ手応えが、翌年の最優秀防御率のタイトルにつながった。昨季はキャリア・ハイとなる13勝(7敗)。チームのクライマックスシリーズ出場に貢献した。

 昨季、ヤクルトは巨人に対して5勝18敗1分けとまったく歯が立たなかった。2年連続のAクラス入りを果たすには、打倒巨人は至上命題である。ちなみに石川と巨人の対戦成績は0勝1敗。勝ち星こそついていないが、防御率は2.86とまずまず相手打線を抑えている。

 そんな身長167センチの小さなエースが、今年磨いている球種はカーブだ。1月の自主トレでベテランの山本昌からコツを教わった。
「これまで僕はカーブを投げる時、腕の振りが緩んでダラーンとした軌道になっていた。これを、もっとメリハリのあるカーブにしたかったんです。そこで昌さんに訊ねたところ、下半身の使い方が大事だということがわかった。左の股関節をグッと後ろに引く感覚で投げるとボールにブレーキがかかり、キュンと落ちるような軌道を描く。これにシンカーとシュートを組み合わせたら、相当バッターは戸惑うんじゃないかなって」

 実際、ここまでのオープン戦、石川は4試合に登板して21イニングを1失点。四死球もまったく与えていない。体は小柄だが、年々、ピッチングは成長を続けている。あと16勝すれば通算100勝となり、そのことも本人にはいいモチベーションになっているようだ。

 東京ドームでの巨人−ヤクルトの開幕戦といえば、1997年、ヤクルトが小早川毅彦の3連発で30億円補強を敢行した巨人を粉砕したことを思い出す。その余勢を駆って、ヤクルトは下馬評を覆し、日本一にまでのぼり詰めた。巨人打線は小笠原をはじめ、勝負強い阿部慎之助、ケガからの復活をはかる高橋由伸、一発のあるイ・スンヨプ、昨季5番に定着した亀井義行と左の好打者がズラリと並ぶ。石川が柔よく剛を制し、強力打線を封じこめれば、波乱の芽を少しは見出せるかもしれない。

いよいよ開幕! 今年も12球団、ゲームセットまで徹底放送!
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【2010プロ野球開幕カード】 ( )内は中継局

◇パ・リーグ
・3月20日(土)〜22日(月)
北海道日本ハム × 福岡ソフトバンク 札幌ドーム(GAORA
埼玉西武 × 千葉ロッテ 西武ドーム(J SPORTS
オリックス × 東北楽天 京セラドーム(22日はスカイマーク)(J SPORTS

◇セ・リーグ
・3月26日(金)〜28日(日)
巨人 × 東京ヤクルト 東京ドーム(日テレG+
中日 × 広島 ナゴヤドーム(J SPORTS
阪神 × 横浜 京セラドーム(スカイ・A sports+

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