みなさん、はじめまして。今季から参入するコリア・ヘチでコーチを務めることになりました田中です。今回のコーチ就任は僕にとって、予想外の出来事でした。きっかけは関西独立リーグにコリアン球団が誕生するというニュース。監督が韓国プロ野球で一緒にプレー経験があるパク・チョルウさんだと知り、激励の意味も込めてお電話しました。
 ところが、新球団は韓国人を主体としたチームのため、日本に拠点がありません。「大阪での事務局立ち上げなどで、手伝ってくれないか」。そんな昨年末に受けた依頼から、僕を取り巻く状況は大きく変わっていきました。現役引退後は不動産関係の仕事をしていたため、事務所設立、選手たちの住まいなどを急ピッチで整え、無事チームは来日。ホッとする間もなく、今度は食事の調達や練習場の確保に奔走する日々が待っていました。

 さらに、いざ日本で練習が始まってみると、野手担当コーチがいないため、自然とノックを手伝うことに。いつの間にかユニホームが完成し、コーチに就任していたというわけです。いきさつはどうであれ、野球人としてユニホームを着られるのはありがたいこと。現役引退後、野球に携われる機会がなかなかなかったため、忙しい中にも充実した日々を過ごしています。

 チーム構成は韓国でのトライアウトで集めた選手たちに在日コリアンを含めた19名。韓国プロ野球を経験したのは、内野手のソン・ジファン(元SKワイバーンズ)ら3選手です。日本語とハングルを両方話せるのは日本の大学でプレーしたソク・ジヒョンひとりだけですが、野球をする上でコミュニケーションに大きな問題はありません。

 韓国のチームというと、おそらくみなさんはWBCやオリンピックでみせたようなパワーあふれる野球を連想されることでしょう。しかし、僕たちのチームは、どちらかというと日本の高校野球に近いカラーです。あまり長打に期待できないため、ヒット、四球で出塁したランナーを盗塁やエンドランを絡めてスコアリングポジションに進め、ワンヒットで還す。オープン戦では、そんなスモールベースボールを徹底しています。

 この冬、韓国は大雪に見舞われました。その影響で来日まで室内中心の練習しかできず、実戦に即した内外野の連携やサインプレーは何とか今週末の開幕に間に合った状態です。まだまだミスが目立つため、ここはシーズンが始まってから詰めていく必要があるでしょう。ただ、オープン戦で他チームと対戦した中では、充分、対等に戦える感触を得ています。

「やる以上は優勝。ダントツで勝ちましょう」
 球団代表からは、そうハッパをかけられました(苦笑)。僕たちのチームが関西で受け入れていただくには、結果はもちろん内容でもファンに満足していただく野球をお見せすることが重要です。そして1人でも2人でもNPBや韓国プロ野球に人材を送り込みたいと思っています。

 コリアン球団のため、あまり日本のみなさんにはなじみが薄いかもしれませんが、どんなチームか知っていただくには実際に試合を観てもらうのが一番です。開幕カードは28日の神戸9クルーズ戦(13時、万博公園)。ぜひ、球場に足を運んでください。よろしくお願いします。


田中実(たなか・みのる)プロフィール>:コリア・ヘチコーチ
1967年6月3日、大阪府出身。在日韓国人3世として生まれ、尽誠学園高を経て、86年にドラフト6位で日本ハムに入団。当時は大内の姓を名乗っていた。外野のポジションで90年、91年と2年連続で100試合以上に出場するが、93年限りで退団。翌年から韓国に渡り、2000年まで3球団でプレーした。パク・チョルウ監督はサンバンウル・レイダース時代の先輩にあたる。引退後は帰国して関西の企業に就職していたが、球団創設に伴い、コーチ就任。現役時代のNPB通算成績は331試合、打率.255、39打点。韓国プロ野球での成績は686試合、打率.264、9本塁打、192打点。
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