はじめまして。今シーズンから富山サンダーバーズのコーチに就任した進藤達哉です。3月1日からキャンプがスタートし、開幕に向けて選手は皆、頑張って練習しています。しかし、今年は天候になかなか恵まれません。この時期になってもまだ雪が降っているのですから、富山出身の私ですら驚いている状態です。天候が悪いと特に困るのが守備練習。ピッチングやバッティングは室内でも十分にできますが、守備だけはそうはいきません。守備コーチとしては頭の痛い日々を送っています。
 さて、僕は昨年まで2年間、横浜ベイスターズのスカウトをやっていました。ですから、もちろんBCリーグの試合も何度か視察しています。正直、即戦力というわけにはいきませんが、鍛えれば活躍が期待できる選手は結構いるなぁという印象をもっていました。しかし、実際に今、キャンプで選手を指導していて思うのは、体の弱さ。基礎体力から身につけていかなければいけないことを痛感しています。
 ただ、NPBと違うのは人数が少ない中でシーズンをやり繰りしていかなければいけませんので、故障者が一人でも出ると、チームとしては厳しいのです。試合に支障が出ては本末転倒ですので、どこまで追い込んで練習をさせていいのか、今は手探り状態というところが正直なところです。

 しかし、独立リーグならではのやりがいも感じています。彼らは体力が不足していることもそうですが、技術的な面で知らないことも少なくありません。だからこそ、基本的なことでも新鮮に聞いてくれますし、既に完成された選手よりも吸収の密度が濃い。つまり、それほど伸びしろがあり、どう化けるかわからないということがいえるのです。

 例えば、小さい頃からゴロを捕球する際には、前進しながら捕りに行くように指導されてきた選手が少なくありません。しかし、実際の試合で打球に向かって突っ込みながら捕球することはしません。打球を追う動作はあっても、捕る瞬間、体は止まっているはずなのです。逆に前に突っ込んで、ボールに反発するからこそ、グラブを弾いてエラーになってしまうわけです。ゴロのさばき方の基本は「打球の勢いをスローイングの力にかえる」ということ。そのためには、体を止めた状態で、スーッとグラブをひくのです。そうするとボールとケンカをせずに済みます。

 また送球も「捕ったらすぐに一塁へステップして投げる」と覚えている選手が多いのですが、これもまたエラーの原因になります。捕球をしたら、まずは投げる体勢を整えること。投げるのはそれからでいいのです。それでもし間に合わなくても一塁ですみます。ところが、あわてて投げて悪送球にでもなれば、一塁ではすまなくなり、傷口を大きく広げてしまいかねません。自分の技量よりも上を目指すことも重要ですが、実戦ではできることをやった上でミスをしない方が何よりも大事なのです。というのも、野球というのは不思議なもので、実力を出したうえで打たれて取られた得点はいくらでも挽回できるのですが、自分たちのミスで与えた得点はなかなか返ってはこないからです。

 選手たちには「ボールを100万円のクリスタルだと思え」と言っています。それくらい大事に扱いなさい、ということです。選手たちも「なるほど」と一生懸命に直そうと努力しています。しかし、やはり長年やってきたことですから、体に染み付いたクセはそう簡単にはとれません。頭ではわかっていても、体が動いてくれないのです。あとは反復練習。私も「1年かけて自分のものにしてくれれば」というような長い目で見ていこうと思っています。

 さて、4月3日に開幕を迎えるわけですが、僕としてはピッチャーと野手との間にしっかりとした信頼関係が築かれたチームになってほしいなと願っています。例えば、バックがミスをしても「オレがここを抑えて、アイツのミスを帳消しにしてやる」とピッチャーが思ってくれれば、ミスをした野手もまた「頑張って抑えてくれた。よし、今度は自分がバットで援護しよう」と思えるはずです。こうした相乗効果が生まれるような信頼関係があるチームは結束力がありますから強いのです。

 そういった面で野手として何より大事なのは、ピッチャーが「よし、アウトにできる」と完全に打ち取ったときには、確実にアウトにすることです。そこでミスをすると、ピッチャーのショックは大きい。とらえられた打球は抜けても「仕方ない」と割り切れて気持ちを入れ替えられます。ところが、自分が打ち取ったと思った打球が抜けると、これ以上ショックなことはありません。立ち直るのは容易ではなく、そこからガタガタッと崩れてしまうことも少なくありません。もちろんファインプレーもできるに越したことはないのですが、先述したとおり、やはりミスのない堅実なプレーの方が重要なのです。

 僕自身が富山出身者ということもあり、地元の方から大きな期待を寄せられていることは、ヒシヒシと感じています。特にこれまで富山は打のチームというイメージが強かったこともあり、球団やファンから守備を強化してほしいという声は多いようです。多少のプレッシャーは感じてはいますが(笑)、ベイスターズでのキャリアをいかし、僕がやってきたことを選手たちに少しでも伝えていければ、と思っています。選手たちも皆、頑張っています。ぜひ、球場に足を運んで応援してください。

進藤達哉(しんどう・たつや)プロフィール>:富山サンダーバーズコーチ
1970年1月14日、富山県高岡市出身。高岡商では1年夏、3年夏に甲子園に出場。1988年、ドラフト外で大洋(現・横浜)に入団。5年目からレギュラーに定着し、98年の38年ぶりとなるリーグ優勝および日本一に大きく貢献した。97〜99年には3年連続でゴールデングラブ賞を獲得。01年、交換トレードでオリックスに移籍し、03年限りで現役を引退した。翌04年には横浜の内野守備コーチに就任。08〜09年は同球団でスカウトを務めた。今シーズンより富山の守備コーチとなった。



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