2010年のMLBシーズンも開幕目前――。
 今季も6つの地区でそれぞれ激しい戦いが続きそうだが、中でも最大注目のディヴィジョンと目されているのはやはりアメリカンリーグ東地区である。
 2年連続世界一を狙うヤンキース、その宿敵レッドソックス、2年前にワールドシリーズに進んだレイズというこの地区に属する3強は、今季もそれぞれ戦力を整えてきている。米識者の中では、「メジャーのベスト4チームのうち3チームがア・リーグ東地区に集まった」と指摘するものも多い(もう1強はフィリーズ)。そして当然ながら、このうちの1チームはプレーオフ進出を逃すことになるだけに、その争いからは目が離せない。
 さて、群雄割拠のア・リーグ東地区を制するのは、いったいどのチームになるのか。今回は3強の戦力を具体的に比較&分析しながら、ペナントレースの行方を占っていきたい。
(写真:昨年はヤンキース、一昨年はレイズが制したア・リーグ東地区は今季も激戦必至だ)
【ニューヨーク・ヤンキース】

 昨季、圧倒的な強さで9年ぶりの世界一に輝いた「悪の帝国」を、今季も「スポーツイラストレイテッド」誌の識者13人のうち10人までもが地区優勝候補筆頭に推している(うち8人は2年連続のワールドシリーズ制覇を予想)。攻守の層の厚さを考えれば、それも妥当と言えるのだろう。

 CC・サバシア、AJ・バーネット、アンディ・ペティートという実績ある先発3本柱に加え、昨季ナ・リーグでサイ・ヤング賞級の成績を残したハビアー・バスケスを補強。さらに5番手に若手成長株のフィル・ヒューズが控える先発投手陣に不安は少ない。ブルペンにもマリアーノ・リベラ、ジョバ・チェンバレン、デビッド・ロバートソンらが顔を揃え、全般的に投手陣は万全だ。

 一方で打線からは松井秀喜、ジョニー・デーモンが抜けたため、攻撃力低下を懸念する声はある。ただカーティス・グランダーソン、ブレッド・ガードナーが外野を固めれば守備力アップは確実で、多少は得点が減っても守備力で補えるというのが大方の見方。さらにヘスス・モンテロという強打のルーキーが頭角を現してきているのも心強い。加えて相変わらず資金が潤沢なだけに、打線に多少の誤算があってもシーズン中に補うことは可能なはずだ。
(写真:松井の後釜として5番を打つ予定のカノーの貢献度もヤンキースの鍵を握る)

 ただ……個人的意見をいえば、今季のヤンキースは昨季と比べかなり苦しむのではないかとも考えている。理由は1年前から懸念され続ける主力の高齢化だ。
 30代の選手が揃ってキャリア最高レベルの数字を叩きだした昨季の勢いが、今季も再び繰り返されることは考え難い。特に「コアフォー(デレック・ジーター、リベラ、ホルヘ・ポサダ、ペティート)」と呼ばれるチームの要たちが失速してしまった場合、その代役などどこを探しても見つからない。そして昨季の長いチャンピオンシップ・ランの疲労も影響して、今季は重鎮たちに若干の鈍りが見え始める年になるのではないかと筆者は睨んでいる。

 それでもマーク・テシェイラ、アレックス・ロドリゲスらが力を発揮すれば、プレーオフを逸すことはないはず。しかし勝負の秋を迎えるまでに、少なからず迷走する時期があっても不思議はなさそうである。
(写真:ヤンキースの主砲A・ロッドをア・リーグMVP候補に挙げる声も多い)

【ボストン・レッドソックス】

 今オフは「ディフェンス重視」がMLB全体のトレンドと言われたが、その最先端を行ったのがレッドソックスだった。それぞれ守備に定評のあるエイドリアン・ベルトレ、マイク・キャメロン、マルコ・スクータロを獲得。あるサイバーメトリックスの分析では昨季リーグワースト2位だったレッドソックスの守備力が、この一連の補強策で大きく向上したことは間違いない。

 また先発投手陣にもエンジェルスのエースだったジョン・ラッキーが加わり、ジョシュ・ベケット、ジョン・レスターとエース級が3本揃った。クレイ・バックホルツ、ティム・ウェイクフィールドという新旧の役者も元気で、松坂大輔の出遅れがまるで気にならないほど先発ローテーションは充実している。

 ただ、守備力の強化にも関わらずボストンの評価が一般的にもうひとつ高まってこないのは、打線がやや迫力不足と目されているからだ。昨季、チーム最多の36本塁打を放ったジェイソン・ベイを引き止めず、キャメロン、ベルトレらは打者としてはやや粗さが目立つ。

 ビクター・マルチネス、ダスティン・ペドロイア、ケビン・ユーキリス、JD・ドリューらが残ったラインナップは十分上質にも思えるのだが、地区のレベルの高さを考えれば疑問を呈されてもやむを得ないか。マニー・ラミレス、デビッド・オルティースが猛威を振るった頃と比べ、相手投手が感じる威圧感はかなり目減りしているのは確かだろう。
(写真:より守備的になったといわれるチームをフランコーナ監督はどう扱いこなすか)

 地区王座奪還への鍵は、昨季後半は好調だったオルティース(昨年6月5日まで打率.188、1本塁打ながら、6月6日以降の23本塁打はア・リーグ最多)が完全復活なるかどうか。そしてシーズン途中に、パドレスの大砲エイドリアン・ゴンザレスを噂通り首尾よくトレードでゲットできるかどうか。そのどちらかひとつでも果たされれば、ヤンキースを喰っての3年振りの戴冠は十分にあり得る。

【タンパベイ・レイズ】

 ジェームス・シールズ、マット・ガーサ、デビッド・プライス、ウェイド・デイビス、ジェフ・ニーマン、ジェレミー・ヘリクソン……と28歳以下の俊才がずらりと揃った先発投手陣は上質。「ヤンキースとレッドソックスのどちらの先発ローテーションが上か」という問いは今オフの流行トピックスのひとつだったが、蓋を開けてみれば実はレイズのヤングガンたちが最も力を発揮したとしても驚くべきことではない。

 さらに懸案だったブルペンにはラファエル・ソリアーノという待望の抑えの切り札が加わった。野手陣を見渡しても、契約最終年のカール・クロフォード、カルロス・ペーニャ、弟に年俸で差をつけられたBJ・アップトンらモチベーションの高そうな選手が名を連ねる。今のレイズは攻守に穴が少なく、特に身体能力の高さでは紛れもなくリーグ有数の強豪チームである。

 チーム関係者も「ワールドシリーズに進んだ2年前よりも総合力は上」と自信をみせており、「ESPN.COM」のバスター・オルニー記者も「レイズをこの地区の本命に据えようかギリギリまで迷った」と記述。大半を占める生え抜きの選手たちを上手に育て、同地区の金満球団たちに匹敵するほどの戦力を整えたことはほとんど驚異的と言ってよい。

 ただ問題はその資金不足ゆえに、シーズン中に誤算が生じたときにフレキシブルに対応できそうにない点にある。今季で退団が決定的なクロフォードをトレード要員にする度胸があれば別だが、さもなくばシーズン途中の大型補強など望み薄。それだけにヤンキースやレッドソックスと比べ、主力ひとりひとりの故障やスランプが命取りになる可能性がより高い。

 となると2年前の快進撃再現には、現行ロースターが評判通りの力を発揮する必要がある。具体的には、中軸のエバン・ロンゴリアが多くの識者が予想する通りMVPレベルの成績でチームを引っぱり、若手先発ローテーションが期待通り快刀乱麻のピッチングを続ければ……。
 そして、それらが果たされる可能性が決して低いとは思えないがために、今季のこのチームは米東海岸で大きな注目を集めているのである。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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