岡田ジャパンを見ていると妙な既視感にとらわれる。それは昨年夏、自民党が大惨敗を喫した衆議院の解散総選挙だ。
 解散前、麻生内閣の支持率は20%(毎日新聞調べ)だった。「首相を代えなければ負ける」。何人かが声を上げた。だが「(任期満了まで)時間がない」という声にかき消された。ひとり強気だったのが麻生太郎元首相だ。「郵政解散で小泉自民党が勝った時だって、最初は誰も勝つと言ってなかったじゃないか。選挙はやってみなきゃわからないんだよ」。淡い期待は木っ端微塵に打ち砕かれた。自民党は今もその後遺症に悩まされている。

 3位に終わった東アジア選手権直後に『週刊サッカーマガジン』が行なったアンケートによれば岡田武史日本代表監督の支持率は15.1%。解散前の麻生内閣の支持率にも充たない。セルビア戦後にアンケートをとっていたら、続落していたはずだ。
 だが世間の支持率はサッカーにおいて大した問題ではない。深刻なのは下降の一途をたどっているチーム力だ。セルビア戦後、指揮官は「日本ではかなり強い個でも世界では通用しない。1+1が3になるようにしたい」と話した。それを聞いてへたり込みそうになった。これはJリーグが創設される以前、すなわちW杯が高嶺の花だった頃に関係者が口にしていた言葉だ。高みを目指して回り道を重ね、やっと視界が開けてきた。身を乗り出してのぞき込むと、それはスタート地点と同じ風景だった……。

 指揮官を代え、流れを変えろという人がいる。代えるな、継続性が大切だという人がいる。ここで重要なのは代えるリスクと代えないリスクを秤にかけることだ。その議論まで封殺してはならない。
 日本代表にとっても岡田監督にとっても不幸なのは「時間がない」という消極的続投論だ。「他にいないから、とりあえず現状のままで」というニュアンスでは岡田監督も浮かばれまい。

 ある協会幹部は「あくまでも私見」と断った上で言った。「代えるなら(フィリップ・)トルシエ。強引なやり方を好む彼は短期決戦向き。日本のこともよく知っているし、元々が(岡田監督がオプションに加えようとしている)3バックの信奉者。この時期に代えるなら彼しかいない」
 W杯まで、あと2カ月。不作為が原因で大惨敗を喫した「自民党の夏」を反面教師にしたい。

<この原稿は10年4月14日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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