今シーズンのプロ野球も連日、例年以上の熱戦が繰り広げられています。特に3月26日に開幕したセ・リーグは、予想以上の混戦模様を呈していますね。その中で首位をキープしているのが、開幕前から下馬評の高かった巨人。個人成績でも投打ともにトップの成績をあげており、昨シーズンに負けない安定感を誇っています。私自身も優勝候補にあげていました。理由は他球団以上の層の厚さです。特に外野手は競争が激しく、スタメンの選手も全く安心できない状況です。これがチームを活性化させると思ったからです。
 しかし、その中で懸念されているのが一昨年の新人王、山口鉄也です。先発に転向した今シーズン、10日には登板2試合目にしてようやく1勝をあげたものの、クルーンの故障というチーム事情から再びリリーフで起用されています。しかし、23日にはクルーンが1軍復帰しました。それでも当面は、リリーフとして投げさせるようですが、私としてはせっかくキャンプから先発としての準備をしてきたわけですから、彼自身のモチベーションを考えても、ぜひ今シーズンは先発として投げさせてほしいと思っています。

 とはいえ、前年は1.27だった防御率が今シーズンは6.75(25日現在)という数字を見ても、ここまでは厳しいシーズンとなっていますね。昨年までの山口はマウンド上で余計なことを考えずに、とにかく打者との真っ向勝負に挑んでいたのだと思います。しかし、今年は慣れない先発に転向したことで、いろいろと考えてしまっているのでしょう。表情やコメントからも先発に対しての難しさを感じているようですね。普段、考えながら練習することは大事ですが、試合では自信をもって投げること。特に余裕がない時にはアレコレ考えずに、思いっきり腕を振って投げることが重要です。本来の力を発揮すれば、能力的には左であれだけのストレートとスライダーがあるのですから、うまくはまればそれこそ15勝も夢ではないと思っています。

 巨人は7日に木村拓也コーチがくも膜下出血で亡くなるという悲しい出来事が起こりました。首脳陣も選手たちも突然のことで、大変な衝撃を受けたと思います。しかし、今の巨人を見ていると、そのことでよりチームが結束したように感じられます。十分な戦力に結束力が加わった巨人。今シーズンもやはりこのチームを中心にペナントレースが展開されていくことでしょう。

 巨人に続いて2位争いを繰り広げているのが阪神と中日です。阪神は打線が好調ですね。特に1番・マートンの活躍は予想以上のものでした。外国人には珍しく選球眼がよく、広角に打つことができますし、何より簡単に飛球を上げることがありません。不動の1番・センターを担った赤星憲広が現役を引退し、不安視されていた阪神ですが、今のところマートンがしっかりと代役をこなしているといっていいでしょう。

 さて、連日ニュースとなっている金本知憲ですが、やはり肩の状態はよくないようですね。今はとにかくできるだけ休むことが重要です。しかし、このまま代打で終わることはないでしょう。やはり金本は阪神打線の主軸。勝負どころとなる中盤以降にはスタメンに復帰することでしょう。

 昨シーズンは5年ぶりにBクラスに転落した阪神ですが、今シーズンは球団創立75周年という節目の年、しかも寅年でもあり、ファンも優勝への期待を膨らませていることでしょう。そのキーマンとなるのが、私は新加入した城島健司だと思っています。守備ではもちろんですが、打線でも彼の勝敗のカギを握っています。開幕でうまく波に乗れたのも、城島が好調だったことが要因のひとつとしてあげられます。彼の調子のよしあしが、チームにとってはプラスにもマイナスにも大きく働く。それだけ阪神にとって城島は重要な存在となっているのです。

 その阪神と2位の座を争っている中日は、今シーズンも投打ともに安定しており、高いチーム力は健在です。しかし、昨シーズンよりも戦力としては寂しいものを感じます。というのも、レギュラー陣のコマは揃っているものの、それ以外にプラスとなる人材が少ないのです。いつものメンバーが「打てなかったら」「抑えられなかったら」「故障をしてしまったら」といった場合、それに代わる選手がいるかどうか。つまり選手層のあつさを感じないのです。昨シーズンであれば、例えばそれまで1勝しかしていなかった川井雄太投手が球団記録となる開幕11連勝を打ちたてる活躍を見せ、メジャー移籍した川上憲伸(ブレーブス)が抜けた穴を埋めてくれました。今シーズンも川井投手のような新戦力の台頭があるのかどうかがポイントになってくるのではないかと思います。

 開幕前、私が3位と予想したのが広島でした。キャンプ、オープン戦を通して、継投にしても代打にしても、シーズンを見越して戦っている印象を受けたからです。特に打線は東出輝裕に昨シーズンのような出塁率を期待していましたし、何より天谷宗一郎にブレイクの予感をしていたのです。投手陣はルイスの抜けたことで不安視されていましたが、大竹寛、前田健太を柱に、もう一人新しい外国人投手が出てくれば、と思っていました。しかし、いざシーズンが始まると、東出には粘りが見えません。そして投打の柱と考えていた大竹、天谷は故障で戦線離脱してしまいました。そればかりか、どうも戦い方が雑に見えて仕方ありません。攻撃でのチャンスの際に、もう少し細かい戦術ができれば、自ずと勝ち星は増えてくると思います。

 開幕から3カード連続で勝ち越すなど、幸先のいいスタートを切った東京ヤクルトですが、今月に入って負け越しが続いています。投打ともに能力の高い選手が揃っていますが、長いシーズンの中で息切れをしてしまうのが近年の傾向です。特に打線は青木宣親やデントナ、ガイエルに頼りがちで、彼らが調子を崩してしまうと、たちまち勝てなくなってしまう。12球団一のチーム防御率を誇りながら、勝てないのはそこに原因があるということでしょう。ヤクルトが強かった時代には、クリーンアップに続く下位打線や、代打要員に必ずといっていいほど頼れる存在がいたものです。そうしたポイントゲッターの台頭が欲しいですね。

 今シーズンも低迷気味の横浜は、尾花高夫新監督が就任したとはいえ、やはり発展途上のチームという印象は拭いきれていません。好打者が揃う打線は確かに強力ですが、やはり打線はみずもの。上位に食い込むには投手陣の安定感が不可欠です。特に先発の3本柱として期待されている三浦大輔、寺原早人、清水直行が安定してこない限りはチームは波に乗ることはできません。なかでも寺原にはもう1ランク上のステップを踏んで欲しいと思っています。2ストライクに追い込むまではいいのですが、そこから痛打されることが少なくありません。過信からなのか、慎重さに欠け、コントロールが大雑把になってしまうのです。2ストライクに追い込んでも最後まで気を抜かずに「ここで決めるんだ」という気持ちでしっかりと投げてほしいものです。

 現在はダンゴ状態になっているセ・リーグですが、試合の内容自体を見ていると、取ったり、取られたりというシーソーゲームが少なく、序盤で勝負がついてしまうようなゲームが多いように見受けられます。ですから、今シーズンは早い段階でAクラスとBクラスのチームでは大差がついてしまうかもしれません。ポイントとなるのが来月から始まる交流戦。ここでどれだけ勢いに乗れるか、白星を積み上げられるかによってペナントレースの行く末がおおよそ決まってくることでしょう。各球団がどんな戦いをするのか、注目したいと思います。

佐野 慈紀(さの・しげき) プロフィール
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商−近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日−エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)−ロサンジェルス・ドジャース−メキシコシティ(メキシカンリーグ)−エルマイラ・パイオニアーズ−オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。
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