開幕から約2カ月が過ぎたJリーグ。実力上位のクラブが順位を上げてきました。昨年から継続した戦いのできているクラブが好調を維持しています。特に清水エスパルスの安定振りは素晴らしいものがありますね。長谷川健太監督6年目のシーズンですが、今季は小野伸二が加わり、昨シーズン以上の強さを感じます。

 清水のいいところは小野が中盤に入ることでタメができている点でしょう。昨年はいなかったゲームをコントロールする選手がいますから、ピッチ全体で落ち着いたプレーができている。得点も失点もJ1で最も優れた数字を残しています。これは一過性の強さではありません。シーズン終盤まで上位を争うこと必至です。各選手が監督の意図を十分理解しており、役割がきちんと分担できています。

 清水は無敗で首位を快走していますが、清水に次いで負け数の少ない鹿島(1敗)は、このところ勝ちきれない試合が続き5位となっています。もちろんACLでは圧倒的な強さを見せていますから、それほど大きな心配にはなりませんが、鹿島が勝ち点を取りこぼす原因は興梠慎三にあるように感じます。彼のプレーが悪い、ということではありません。彼に対するマークが年々厳しくなっているように感じるのです。動きもかなり研究されていますね。しかしそれは、どのFWでも一度は経験する、超えなければいけない壁です。クラブとしても、彼が抑えられたときにどのように局面を打開すべきか。そして、興梠をいかすためにはどうしたらいいのか。そのような点をもう少し詰めなければいけないように感じます。

 清水、鹿島のFWは、代表でもポジションを争う岡崎慎司と興梠です。興梠はW杯ボーダーライン上にいるかもしれませんが、岡崎は当確といえる存在。しかし、ほんの1年半前なら二人の立場は大して変わらなかったはず。それどころか、岡田武史監督は興梠を重宝していたはずです。ここに清水好調の理由が見えてくるように思います。岡崎はパスの出し手に多くを求めないタイプです。今季から加入した小野にとってもやりやすいのではないでしょうか。パスの出し手に対して柔軟に対応できています。だからこそ連係を深める時間がどうしても少ない代表で結果を出してきたのでしょう。興梠が連係面で難があるわけではありませんが、対応力について岡崎に軍配が上がっていますね。興梠にはこの点でもワンランク上の選手になってほしい。それができるだけの選手なのですから。

<中盤での汗かき役がいない……>

 代表の話になりましたから、先日のセルビア戦に触れないわけにはいきません。海外組、DFラインの要・田中マルクス闘莉王も欠いていた布陣とはいえ、ホームで0対3は目を背けたくなるような内容です。完全な力負けであり、チームとして負けたと言わざるを得ません。出場した選手たちから何をすべきかという意図を感じることもできず、大きな不安だけが残りました。

 最も与えてはいけない先制点を、早い時間帯で奪われたことも気になります。チームとして全く完成していません。ここまできたら、今後のJリーグの日程を全てキャンセルして代表強化に当てたほうがいいのではないでしょうか。今の日本代表はそれほどまでに危機的状況にあるように思います。ドーハの悲劇から始まって、フランスW杯では念願の初出場、そして日韓W杯では決勝トーナメント進出。ドイツでは足踏みをしましたが、今のまま南アフリカW杯を迎えたならば、これまで日本代表が積み重ねてきたものが全て崩れてしまうかもしれません。南アフリカで何もせずに3連敗するよりは、もっと監督も選手も必死になって戦う姿を見せて欲しい。実現不可能なことは承知ですが、代表を発表したら即合宿に入って一からチームを作り直して欲しい。思わずそのような考え方が頭をよぎってしまいます。

 まず、日本代表はどこを修正すべきか。それは守備陣の再構築です。これはDF陣だけの話ではありません。セルビア戦ではDFラインの裏をとられる場面が目立ちましたが、あのような場面をW杯で許したら、あっというまに大量失点を喰らいます。DF陣が踏ん張ることは言うまでもありませんが、今の日本は中盤からの守備意識が低いのです。ここを修正しなければ、岡田ジャパンは決定的なダメージを受けることになるでしょう。とにかく中盤にパサーが多すぎます。たしかにセルビア戦は長谷部誠を欠いていましたが、それを踏まえても中盤からのプレッシャーが全く足りなかった。私は中村俊輔と遠藤保仁を中盤で併用することに限界があるように感じています。2人とも守備の意識が低い。日本が点を取られないようにするためには中盤の献身的な動きが必要です。どちらか1人ならばまだいいかもしれませんが、2人同時にピッチに立たれるとDF陣はたまったものではない。私がDFならば、そう思います。

 そして私が監督ならば、中盤で汗をかくことを厭わない小笠原満男や小野を中盤に入れます。彼らの持つ統率力も必ずやプラスに働くはず。このまま南アフリカに乗り込んでも、日本代表に光が射すとは思えません。運命の5月10日はもう間もなくやってきますが、岡田監督にはドラスティックな変化を求めたいですね。手をこまねいて3連敗する事態だけは、どうしても避けて欲しいものです。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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