「勝ち点1を拾うサッカーはしない」。湘南ベルマーレ反町康治監督は、2010シーズンの目標をJ1残留としながらも、あくまで勝ちにこだわるサッカーを目指すと開幕前に宣言した。
 3月6日、クラブにとって11年ぶり、阿部にとっては3年ぶりのJ1の舞台がいよいよ幕を開けた。第1節、2節と途中出場になった阿部は、これまでになくクラブ全体の動きが固くなっているように感じた。過去にJ2のみで戦ってきた多くの選手は、J1の雰囲気に呑まれてしまっていたのだ。
「最初のうちはどうしても慣れるまでに時間がかかる。でも、これまでやってきたことを続けていれば、自然に自分たちのサッカーができるようになる」。そう信じてプレーした結果は、第4節アルビレックス新潟戦に表れる。2対0で今季初勝利を挙げ、ホームのサポーターたちと喜びを分かちあった。
「自分たちのサッカーでも結果は出るんだという自信のついた試合でした。ホームでの大声援もあり、本当に大きな勝ち点3を獲得することができました」
 クラブにとって久しぶりのJ1での勝ち点3。それまで2試合続けて3失点を喫していた湘南だったが、この日は相手攻撃陣を完璧に封じ込め完封勝ち。阿部の言葉通り、J1での勝ち点3はクラブに大きな自信をもたらしてくれた。

 阿部は前線で体を張って攻守に渡り奮闘していたが、やはりFWはゴールという結果を出さなければならない。待望の今季初ゴールが生まれたのは4月25日、第8節のベガルタ仙台戦だった。後半21分にコーナーキックのチャンスでヘディングシュートを叩き込んだ。湘南はこの1点を守り切り1対0で勝利。今季2勝目を同じく昇格組の仙台から奪った。
「得点に対する焦りはなかったのですが、まず1点を取らなければ、自分の中で止まった時計の針が動かないような思いがありました」
「ただ、この試合に関しては自分のゴールよりも2勝目をあげることができたのが大きかった。得点は練習どおりのことをしていれば、そのうち入るものだとも思っていたので、勝ったことの方が数倍嬉しかったですね」

 残留に向け欠かせないもの

 現在、湘南は2勝3分け6敗で勝ち点9。同じ勝ち点で2クラブと並んでいるものの、得失点差で18位。消化試合が1試合少ないとはいえ、このままではクラブが目標としているJ1残留が難しい。これから上昇気流に乗って行くためには何が必要なのか。

「やはり闘志とか不屈の精神が不可欠です。気持ちを前面に出していかなければいけません。最終的な目標は残留ですが、できるだけ目線を上に持っていかなければいけない。そのためには、いかに上位クラブに食らいついていけるかだと思います」。

 苦しい戦いが続いている湘南だが、第8節の初ゴールを決めてから、阿部はリーグ戦で3得点を挙げ好調を維持している。今年で30歳になる阿部は日々の生活の中で重要視していることがある。

「毎日のリズムを守ること、ルーティンを大切にしています。自分がFC東京でプロの世界に飛びこんだ時は、三浦文丈さんをはじめとした先輩たちがとても真面目にサッカーに打ち込んでいた。その姿を見てすごく刺激になりました。自分がキャリアを積んできた今は、とにかく若手と同じだけの練習をして、彼らをひっぱっていきたい。言葉に出さなくても、僕が一生懸命やっていれば、若い選手たちは“自分たちもやらなきゃ”と感じますよね。そのためにも、これまでやってきた練習のパターンや量を崩さずに、プレーしていきたいと思っています」

 選手として円熟期を迎え、「技術的にはこれまでで今が一番うまくなっている」と実感している阿部。湘南が浮上するためには、阿部の活躍は欠かせない。2010シーズン、本当の戦いはこれから始まる。南アフリカで行われるサッカーの祭典の裏で、平塚では“湘南の暴れん坊”が虎視眈々と捲土重来を目論んでいる。逆襲の刻は、間もなくやってくるはずだ――。

(おわり)
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(写真:(c)SHONAN BELLMARE)

<阿部吉朗(あべ・よしろう)プロフィール>
1980年7月5日、愛媛県新居浜市生まれ。小学3年時からサッカーを始め、常総学院高校を経て流通経済大学へ。関東大学リーグ2部に所属するチームで頭角を現し、大学4年次には日韓定期戦メンバーにも選出される。02年11月、FC東京と契約、大学在学中に天皇杯でデビューを飾る。その後、大分、柏を経て、08年にJ2・湘南ベルマーレに移籍。昨年は48試合に出場し10得点。特に最終節水戸ホーリーホック戦で2得点を上げ、クラブのJ1復帰に大きく貢献する。10シーズンは先発出場の機会が増え、4月25日ベガルタ仙台戦で、自身にとって4年ぶりのJ1ゴールを決めている。Jリーグ通算186試合出場、32ゴール(10年4月30日現在)。174センチ、72キロ。




(大山暁生)
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