いよいよ南アフリカW杯まで1カ月を切った。参加32カ国の本大会出場選手が明らかになる中、岡田武史監督率いる日本代表も23名の出場選手を発表した。今回は岡田ジャパンが南アフリカで上位進出する可能性を探ってみたい。

 23名の本大会出場メンバーをここで改めてポジション別に紹介してみよう。GKは3名で先発出場濃厚の楢崎正剛(名古屋)に、代表で確固たる地位を築きつつある川島永嗣(川崎F)、そして一番のサプライズ招集となった川口能活(磐田)だ。

 楢崎は2002年日韓W杯で正ゴールキーパーとして3試合に出場しており、世界の舞台は経験済みだ。川島は初の大舞台となるが、Jリーグでも安定したセービングを見せている。
 注目は第3GKの川口だ。岡田武史監督が能力以上に期待したのはリーダーとしての役割だ。「ゲームキャプテンとチームキャプテンを分けることも考えている」。とりもなおさず、これは「チームキャプテンは川口」と指名したようなものだ。もちろんゲームキャプテンは中澤佑二(横浜FM)ということだ。「彼には第3キーパーという非常に難しいポジションのなかで、彼のリーダーシップの部分と、選手からも一目置かれている存在が大会を戦う上でどうしても必要だと考えて選びました」。これだけ期待をかけられれば「よし、監督を男にしよう」となるものだ。

 川口は攻撃的なGKである。素早い飛び出しでピンチを未然に防ぐ。アトランタ五輪でのブラジル戦を持ち出すまでもなく、神が宿った時の川口はもう手が付けられない。その一方で、とんでもないミスを仕出かす時もある。ドイツW杯でのオーストラリア戦がその典型だ。思い切った飛び出しが裏目に出て同点ゴールを決められ、その後もたて続けに2点を失った。川口は「その場にいたくなかった」とその時の心境を吐露していた。
 だが川口は決して失敗を引きずらない。続くクロアチア戦では冷静な判断でPKを止め、日本に勝ち点1をもたらした。栄光の峰も挫折の谷も経験して今の川口がある。その豊富な「経験力」を岡田監督は買ったのだろう。

 DF登録は6名。ここは大きくセンターバック、サイドバック、ユーティリティーの3タイプに分けてみたい。守備の要であるセンターバックには中澤佑二(横浜FM)、田中マルクス闘莉王(名古屋)と岡田ジャパンを支えてきた2人に加え、当たりの強い岩政大樹(鹿島)が呼ばれた。
 中澤、闘莉王については先発出場濃厚だが、この2人の不安点はスピードが不足していること。日本が対戦する3カ国には、世界的ストライカーが揃っているが、彼らの持ち味は決定力以上に、そのスピードにある。マンマークに強い岩政のよさは相手に自由にプレーさせないところ。スピードに乗る前に的確に相手を抑えこむことができる。Jリーグで何度も対戦し、北朝鮮代表としてW杯のピッチに立つ鄭大世(川崎F)も「最も嫌いなDFは岩政さん」と口にする。中澤、闘莉王が相手FWに簡単に振り切られるような場面が多く見受けられた場合は岩政にも出場の機会が巡ってきそうだ。ただ、それは日本代表にとって歓迎すべき事態ではないかもしれない。

 サイドバックでは右の内田篤人(鹿島)、左の長友佑都(F東京)、そして状況によって両サイドをこなす駒野友一(磐田)が選出された。内田はW杯終了後には独・ブンデスリーガの名門・シャルケへの移籍が確実視されている。昨季2位に入った強豪だけに、ポジション争いを制すれば欧州CL出場期待もかかる。欧州デビューの前に南アフリカでインパクトのある動きを見せておきたい。左サイドの長友は強い体幹と豊富な運動量で、昨年からさらに成長している。昨年9月のオランダ戦では、左サイドから果敢にチャンスを演出していた。対峙するロビン・ファンペルシ(アーセナル)とも互角のマッチアップを展開した。ワールドクラスに向け、着実な成長をとげている。駒野は控えのポジションになるが、現在のサッカーではサイドバックの運動量は想像以上に大きい。グループリーグの3戦で、内田と長友が常にトップフォームでいられる保障はない。両サイドをカバーできる駒野は岡田監督にとって心強い存在だろう。

 ユーティリティー型のDFとして今野泰幸(F東京)とMF登録の阿部勇樹(浦和)が挙げられる。ともにスピードがありセンターバックや中盤のアンカー、場合によってはサイドバックを務める器用さも持ち合わせている。バックアッププレーヤーとして欠かせない存在ではあるが、現地で好調を維持していれば先発出場の目も出てこよう。先述したとおり、センターバックにスピードのある選手がいないため、彼らの守備能力は局面によって必要になるはずだ。これまで“便利屋”のように扱われている二人だが、南アフリカではこれまでよりもクローズアップされる可能性は大いにあると見る。

 頼もしい本田の自己主張

 中盤は阿部も含めると8名。ここは誰が先発してもおかしくない。攻守のキーマンとなる遠藤保仁(G大阪)に、ドイツで大きく成長した長谷部誠(ヴォルフスブルク)。今季からJリーグ復帰を果たし、高いパフォーマンスを示している稲本潤一(川崎F)と中村俊輔(横浜FM)。さらにシーズン序盤に顎骨骨折の重傷を負いながらも抜群のパスセンスを買われて代表入りした中村憲剛(川崎F)と、フランスリーグで活躍中でドリブルが魅力の松井大輔(グルノーブル)。そして、オランダからロシアに活躍の場を求め、欧州CLでも大きなインパクトを残した本田圭佑(CSKAモスクワ)だ。

 試合全体を組み立てる中盤の低い位置には遠藤と長谷部が入ることになるだろう。特に欧州の舞台で揉まれている長谷部のタフなプレーに注目したい。彼は攻撃センスも高く、2列目、3列目からの飛び出しでゴール前でのチャンスを演出する。強烈なミドルシュートも持っており、日本の武器になることは間違いない。これまで岡田ジャパンで不動の地位を築いている遠藤だが、今年に入ってコンディションがなかなか上がらず苦しいシーズンを送っている。彼の出来はそのままチームの浮沈に直結するだけに、本番までにどれだけ体調が戻ってくるかが気になる。稲本の特長は攻撃力。高い位置からプレッシャーをかけボールを奪うと、素早い切り替えで相手ゴールに向かっていく。日韓ワールドカップでの2ゴールの再現を願っているファンは少なくあるまい。

 攻めのキーマンとなるのは、中村俊と本田だ。さらに中村憲もトップフォームに戻ってくればキックオフからピッチに立つ可能性もある。トップ下には本田が入ることになるだろう。CSKAモスクワでの活躍は今さら説明の必要はあるまい。欧州CL決勝トーナメント1回戦セビージャ戦で見せたFKは、間違いなく世界でもトップレベルのシュートだった。CLでは惜しくもベスト8敗退となったが、これで本田が満足することはない。本田は先日の帰国会見で「守備をするために試合に出ているのではなくて、自分の特長は攻撃にあることは自分でも自覚している。それを出すために僕は試合に出ている」「できれば守備はしたくない」と自らの考えを口にした。たしかに岡田ジャパンのコンセプトは『全員攻撃、全員守備』だ。しかし、本田の発言は正論である。代表で自己主張できない男が、世界最高の舞台で活躍できるわけがない。

 サッカー協会の中にも本田支持者はたくさんいる。その代表格が川淵三郎名誉会長だ。
「僕が今回のW杯で一番期待しているのは本田だね。ああいう荒々しさとかたくましさを持った選手は必要だね。ずっと彼を見ているけど、ここ最近の彼の成長はすごい。ロシアに行ってまた成長したんじゃないかな。北京五輪の時なんてボールを止めてちょこちょこやった後はバックパスするくらいで、ほとんど目立ったところはなかった。
 それが今や人には強い、球離れは速い、シュートも巧いと惚れ惚れするようなプレーをしている。短い期間で、あれだけ成長する選手も珍しい。岡田監督にツキがあるとしたら、彼と出会えたことだろうね。とにかくロシアの凍てついたピッチでも全くバランスを崩さないし、当たり負けもしない。ものすごく体幹がしっかりとしている証拠だね」
 ヒデ(中田英寿)が不言実行タイプなら本田は有言実行タイプ――。
 こう語るのは元日本代表の名波浩氏だ。
「以前、本田と飲んだ時に“名波さん!”と僕を呼ぶんです。先輩の僕を自分の隣に座らせて“さぁ、いろいろとサッカーの話をしましょう”と言ったんです。こうした主役意識が彼の中に常にある。ヒデも明るい酒ではあるんですが、少なくともオフの席では“オレは中田だ!”という振る舞いはしない。しかし本田は酒の席でも“オレは本田だ!”という意識で振舞っている。ここがヒデとの違いかな」
<出る杭は打たれる>ということわざが、この国にはある。しかし、<出すぎた杭は打たれない>――。

 岡崎には乾坤一擲のヘディングを!

 本田の躍進によって、やや影が薄くなった感のある中村俊だが、彼の経験とセンスは捨て難い。ただ、トップ下での出場が難しいとなると、右サイドが仕事場か。左サイドには松井、もしくはFW登録の岡崎慎司(清水)、大久保嘉人(神戸)の起用も考えられる。松井にはドリブルでDFラインの背後をつく動きを期待したい。

 中盤の構成を考える上で、相手のストロングポイントをどう抑えるべきか、それを考慮する必要がある。サミュエル・エトー(インテル)、アリエン・ロッベン(バイエルン・ミュンヘン)、ニクラス・ベントナー(アーセナル)といった左サイドにスピード溢れる選手を擁する3カ国との対戦では、必然的に右サイドハーフの背後を突かれる場面が増えることになる。そうなればサイドバックの内田の負担が増す。相手のサイド攻撃を封じるために右に長谷部、ボランチの位置に遠藤と稲本という選択肢もあるのではないか。さらに左サイドハーフに長友を置いて、後ろには駒野を配置すれば理にかなった布陣となる。このように中盤の配置はケースバイケース。岡田監督には臨機応変な対応が求められる。

 FWでは5名が選出された。岡田ジャパンの常連である玉田圭司(名古屋)に大久保、そして昨年一気にブレイクを果たした岡崎。イタリア・セリエAで揉まれている森本貴幸(カターニャ)に加え、矢野貴章(新潟)が最後の1枠に滑りこんだ。

 どうしても「上背のないスピードタイプ」が多くなるFW陣の中で、岡田監督が軸に考えているのが岡崎だ。決して身長があるわけではないが、ヘディングが強く気持ちごとゴールに飛び込んでいくタイプ。「座右の銘は“生涯ダイビングヘッド”」というほど、ヘディングへのこだわりは強い。W杯日本人初ゴールを記録した中山雅史のような雰囲気を持っている。対戦国のDF陣は屈強な選手ばかり。岡崎のように気持ちの折れない選手でなければ、金庫をこじ開けることは難しい。パサーの揃う中盤からピンポイントで彼の頭へどれだけボールを供給できるか。乾坤一擲のヘディングを見せて欲しい。岡崎は「W杯での目標は3ゴール」と公言している。グループリーグで考えれば1試合に1ゴールの計算だ。その意気や良しだ。

 意外と低くない岡田ジャパンの評価

 最後にイギリスの大手ブックメーカー、ウイリアムヒルのオッズを見てみよう。日本とグループリーグで対戦する3カ国が決定した直後に発表したオッズはオランダ1.67倍、カメルーン4.5倍、デンマーク5.5倍に対し日本は10倍。さらに最新のオッズに目を移すと、オランダ1.61倍、カメルーンとデンマークが5倍、日本は12倍とさらに人気を下げている。
 ことあるごとに各メディアで紹介されているこのオッズだが、実はこれ「グループリーグトップ通過」のオッズなのだ。競馬にたとえるならば、単勝馬券のようなもの。「グループリーグ突破となる2位以内」というオッズではオランダ1.14倍、カメルーンとデンマーク2倍に対し、日本は3.75倍と1位通過オッズで受けるほどの低評価ではないことがわかる。ブックメーカーは“日本の1位通過はあり得ないが、2位ならば全くないわけではない”と判断しているのだ。これは多くの日本人サポーターよりも楽観的な見解だろう。意外なことに、外から見た岡田ジャパンの評価は国内のそれよりも希望が持てる。

 初戦のカメルーン戦がすべて――。このような論調が勢いを増している。岡田監督はベスト4を目標に掲げているが、現実的目標は決勝トーナメント進出だろう。ではグループリーグを突破し、決勝トーナメントに進出するための前提条件とは何か。初戦のカメルーン戦に勝つに越したことはないが、それ以上に負けないことだと私は思う。

 前回のドイツ大会を思い出してほしい。初戦のオーストラリア戦、前半を1点リードで折り返したジーコジャパンは、後半残り10分でたて続けに3点も取られてしまった。気になったのは後半39分、同点に追いつかれた時点で、日本の選手のほぼ全員が下を向いてしまったことだ。30度を超える猛暑にスタミナを奪われたとはいえ、白旗を掲げるにはあまりにも早すぎた。これは今さら言っても仕方がないことだが、1対1の引き分けでゲームを終えるという選択肢もあったはずだ。
 しかし、チームは意思統一をはかることができなかった。その象徴が後半34分、1点リードの場面で投入された小野伸二(現清水)というカードを巡る解釈だった。試合後、DF陣が口を揃えて「守れということだと思った」と答えたのに対し、司令塔の中村俊はこう語った。「伸二を入れたら2点目を取りに行け、ということだと思った。それを逆に突かれた」。一枚のカードを巡る解釈がバラバラではチームは機能しない。凄絶な逆転負けを喫したのも当然といえば当然だった。日本はドイツで払った高い授業料を南アフリカで取り返さなければならない。
 ワールドカップは4年に1度の世界で最高のコレクションだと私は考える。世界最新の戦術とテクニックを洋の東西、南北の強国、俊英たちが競い合うのだ。4回目の出場で、極東の島国はどんなオートクチュールを世界に披露するのか。勝つに越したことはない。それ以上にサムライブルーには後世に語り継がれるアフリカの祭典のキープレーヤーであって欲しいと強く願う。


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