今季のNBAファイナルは、2年ぶりに東西の横綱対決が実現することになった。過去通算15度の優勝を誇るロスアンジェルス・レイカーズと、17度優勝のボストン・セルティックス。リーグを代表する名門フランチャイズ同士が、そのプライドを賭けて頂上決戦に臨むのだ。
「今年こそレブロン・ジェームスとコービー・ブライアントの対決が観たかった」とキャブズの早期敗退を残念に感じているファンは少なくないのだろう。それでもそのドリームマッチを除いて考えたとき、レイカーズ対セルティックス戦こそが最も待望されたマッチアップであることに疑いの余地はない。
(写真:試合会場の大盛り上がりは想像に難くない)
 レイカーズはコービー・ブライアントという絶対の切り札を軸に、ポウ・ガソル、アンドリュー・バイナム、ラマー・オドムという長身トリオの高さを活かすスタイルを完全に確立。西カンファレンス第1シードの実力通りに、サンダー、ジャズ、サンズを余裕を持って下してきた。

 一方のセルティックスからもレイジョン・ロンドという新スターが誕生し、すべて30歳代の「ビッグスリー(ケビン・ガーネット、ポール・ピアース、レイ・アレン)」と絶妙な新旧フォーメーションを形成。東カンファレンスの第4シードでスタートしながら、本命視されたキャブズ、マジックを立て続けに破って業界を驚かせた。
「優勝バナーを勝ち取るためにここまでやってきた。チャンピオンリングを勝ち取るためにプレーしてきたんだ」
 そんなガーネットの言葉に、両チームの全選手たちが同意するはず。レイカーズとセルティックスの対戦は、頂点を争うに相応しい、まさにNBAの黄金カードなのである。

 両チームの激突を考えたとき、興味深いマッチアップが目白押しだ。
 まずセルティックスの攻撃の起点となっているロンドを、レイカーズの誰がガードするか。レイカーズは第1ラウンドのサンダー戦で、ロンドによく似たスピーディなラッセル・ウェストブルック(平均20.5点)の前に大苦戦を強いられた。現在のロンドは総合力ではウェストブルックを上回るだけに、ここでもMVP級の大暴れをみせる可能性は十分にある。

 デレック・フィッシャーの脚力が衰えていることを考えれば、コービーがこのロンドのディフェンスに廻る場面もありそう。ただ、そうするとレイ・アレンをガードする選手がいなくなる。さまざまな形でマッチアップ・プロブレムを引き起こすロンドの扱いは、ゲーム展開と勝敗を大きく左右することだろう。
(写真:ロンドはシリーズの鍵を握る選手)

 さらにインサイドの鍵を握るガソルとガーネットの対決も、このシリーズの生命線の1つだ。レイカーズとセルティックスは2年前のファイナルでも顔を合わせていて、その際はセルティックスが4勝2敗で完勝。その勝因の1つが、ゴール周辺でガーネットがガソルを制圧したことだった。

 ただ近況を比較したとき、レイカーズで3年目を迎えたガソルが今季は好調なのに対し、ここ数年のガーネットは度重なる故障に苦しんでいる。2人の立場は逆転したと見る向きは多く、ガソルがここで得点力を発揮できた場合には、もともとコービーというスコアラーを擁するレイカーズは一気に有利になる。
 スペインの至宝(ガソルはスペイン出身)は、2年前の雪辱を果たすことができるか。昨季、優勝リングを獲得しながら未だ勝負弱さが指摘されるビッグマンにとって、今ファイナルは個人の名声もかけた大舞台だと言ってよい。
(写真:コービーは通算5度目のファイナル制覇を達成できるか)

 このようにスーパースターが数多く揃ったファイナルは、接戦の連続の末に6、7戦までもつれる長期シリーズになることが濃厚。ベンチからの貢献、フィル・ジャクソン(レイカーズ)、ドク・リバース(セルティックス)という指揮官の采配まで含め、トータルの力が問われる戦いになる。そして両チームの戦力を純粋に比べたとき、個人的にはセルティックスがやや上なのではないかと見ている。

 なぜならセルティックスの方がより攻守のバランスに優れ、守備の意識も高く、控えの層も厚い。レイカーズはサンズ、ジャズ戦では相手のサイズのなさに助けられた感があった。その高さの利点がセルティックス戦では消失するのも大きい。
「ここまで厳しい道のりだった。その戦いの中で僕たちのメンタルタフネスを見せることができたと思う」。ピアースがそう勝ち誇ったように、評価の高かったキャブズ、マジックを連破したセルティックスの力は紛れもなく本物である。

 ただ……そうは言っても、両者の差がほんの僅かであるのも事実。そしてこれほど実力伯仲の対戦では、地元で数多くプレーできる方が断然有利。もちろんカンファレンス・ファイナルでも敵地オーランドで2勝を挙げたセルティックスのアウェーでの強さは百も承知。しかしレイカーズも、今プレーオフでは地元ロスアンジェルスで未だ無敗であることを忘れるべきではない。今ファイナルでは、レイカーズがホームコートアドバンテージを持っているがゆえに、最終的に「ほんの僅かの差」は逆転すると筆者は睨んでいる。

 特に主力選手のコンディション、スタミナ面で不安が残るセルティックスが、疲れの見えてくる6、7戦を敵地で戦わなければいけないのは何とも厳しい条件である。このタイミングの悪さ(もちろんホームコートアドバンテージを得るために長いシーズンを戦うのだから、「不運」などという言葉は使うべきではないが)が、勝負を分けるのではないか。

 シリーズ中盤まではセルティックスが上手さをみせ、おそらくは第5戦までに先に王手をかける。しかしロスアンジェルスに戻ったレイカーズは息を吹き返し、時を同じくしてセルティックスは故障と疲労で失速。そこでリーグ最強のクローザー、コービーが最後の2戦で真価を発揮する。
 そしてレイカーズが形勢逆転し、4勝3敗で2連覇を飾る……そんなシナリオを、個人的には頭に描いている。
(写真:輝く優勝リングを手にするのはどちらか)

 もちろん展開、結果など蓋を開けてみなければ分からない。ただ、いずれにしても確かなのは、この「スーパー・スターウォーズ」が全米を魅了するだろうということ。伝統とスターパワーを兼ね備えたフランチャイズ同士の対決への注目度は大きい。中継するテレビ局は莫大な視聴率を獲得し、シリーズ期間中はスポーツファンの話題を独占することになるに違いない。

「(セルティックス戦は)最高のマッチアップだ。この挑戦を楽しみにしているし、私たちにとって大きなテストになる」
 コービーのそんな言葉は、すべてのNBAファンに共通する想いでもある。
 どうか、その期待に応える激闘ファイナルになることを祈りたい。感動的なゲームの連続に揺れる日々を、全米のスポーツファンが心待ちにしている。そして勝ち残るのがどちらであっても、「2010年の王者」として誰もが素直に讃えられるような爽やかな結末になってほしいものである。


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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