6日の新潟アルビレックスBCとの接戦を制し、福井ミラクルエレファンツは北陸地区2位(8日現在)に浮上しました。特にここ3試合はいずれも1点差ゲームを凌いでの勝利だけに、チームの成長を感じています。1位の石川ミリオンスターズとは4ゲーム差です。前期は残り10試合。今後も1試合1試合を大事に戦い、いい結果を出せればと思っています。
 とはいえ、ここまで順風満帆だったわけではありません。開幕直後はまずまずの戦いをしていたものの、GWに入ると引き分けをはさんで8連敗。5月2日の群馬ダイヤモンドペガサス戦など、0−20という大敗を喫してしまいました。まるで10連敗という屈辱的な記録を残した昨シーズンを彷彿させるかのようだったのです。

 しかし、そのままズルズルといかなかったところに、このチームの成長がうかがえました。連敗中、選手も非常に苦しかったことでしょう。それでもキャンプから地道にやってきたことが、徐々に実を結び始め、一つ一つ勝ち星を積み重ねてきた結果、優勝を狙えるところまできたのです。

 昨シーズンまでのチームとの違いに、犠打の成功率が高まったことがあげられます。昨シーズン72試合でわずか95だった犠打数は、今シーズン26試合を終えて36。リーグでも石川に次いで2番目に多い数字です。これによって、ランナーが出たら犠打でスコアリングポジションに送り、タイムリーで得点する、という明確な戦略がたてられるようになったことが大きいですね。

 昨シーズンまでは優位に試合を進めていても、一度相手にリードを許すと、そこからズルズルといってしまっていました。しかし、今シーズンはリードされても、そこから挽回することができるようになりました。それもやはり犠打をきちんとやることによって、チャンス時の得点の確率が高くなったからでしょう。

 また、監督就任当時からチームの課題としてきたのが失策数をいかに減らすかとういことです。これを克服するには、もう少し時間がかかりそうです。現在、失策数は42。既に昨シーズンの約半数を数えてしまっています。しかし、全く成長していないかというとそうではありません。まず最初のアクション、「捕球する」という点についてはミスが少なくなりました。打球のバウンドの中にどう入るかということがわかってきたのでしょう。ときには一、二塁間を抜けるだろうと思われる打球にもダイビングキャッチをして止め、併殺に仕留めるなど、ファインプレーも出てくるようにまでなりました。あとは捕った後の送球。故障や肩の強さなど、選手個々の悩みを抱えてはいるものの、少しでも減らしていければと思います。

 このように攻守にわたってチーム全体がレベルアップしたことはチーム成績にもはっきり表れています。昨シーズンまでは投打ともに最下位だったわけですが、現在はチーム打率(2割6分5厘)はリーグ3位、チーム防御率(3.83)もリーグ4位です。特にここ最近は打線が活発です。その中核を担っているのが、キャプテンでもある織田一生(福井高−東北福祉大−TDK千曲川−TDK)です。打率3割5分6厘はリーグ5位。チーム唯一のベスト10入りを果たしています。その織田とともにコンスタントに打っているのが、慶家誠太朗(鯖江高−松坂大−福井ミリオンドリームズ)と新人の北田亘(酒田南高−専修大学)。一発の怖さはないものの、彼らを中心につなぎがしっかりしているのが好調の要因です。

 一方、投手陣ですが、現在は藤井宏海(福井工大福井高−千葉ロッテ−三菱自動車岡崎)と岩井昭仁(岐阜総合学園高−愛知学院大−ヒタチエクスプレス)の2本柱が頑張ってくれています。両投手ともに防御率1点台と安定しており、リーグでも藤井(1.19)はトップ、岩井(1.87)も3位です。しかし、やはりこの2人に比重が大きく、特に完投能力の高い藤井には負担が大きくのしかかっている状態です。

 それでも開幕前は、正直計算できるのは藤井しかいませんでした。開幕投手には度胸の良さを買って、石井賢吾(横浜高)を抜擢しましたが、それでも3回までもてば御の字と思っていたのです。しかし、敗戦投手にはなったものの、4回まで無失点に抑えてくれましたから、私としては合格点でした。そして2戦目に先発を任せた高卒ルーキーの橋本渉(神港学園高)も今後のことを考え、ある意味で試験的に起用したのですが、結果的にはいい方向に出ています。6日の新潟戦では5安打完封勝ちを収めました。もともとマウンド度胸はありましたが、やはり技術的には高校とプロでは違います。特にコントロールは、高校で通用していたものがプロではそうはいきません。橋本は、実戦を重ねるたびに学んだことを徐々に自分の技術として使えるようになったということでしょう。

 NPBの世界でも同様ですが、レベルアップにはヘッドワークが必要です。つまり、いかに頭を使って工夫したり応用することができるか。これは何も技術的なことだけではありません。例えば、先日も投手陣に話をしたのですが、相手バッターを見ていると、引き上げた足が着地したと同時に明らかに体が開いてしまっている。これを見ておけば、いざ自分がマウンドに立った時に、どのコースに投げれば抑えられるかがわかるはずです。ですから、たとえベンチにいる時にでも常に頭を使っているかどうかで、差が出てくるわけです。

 さて、残り10試合と迫った現在、私たちの目標はとにかく勝率を5割に戻すこと。まずはそこからです。あとの結果は他チームの勝敗にもよって左右されますから、チャレンジャーとして必死に前を追いかけていければと思っています。

野田征稔(のだ・ゆきとし)プロフィール>:福井ミラクルエレファンツ監督
1941年12月5日、長崎県出身。PL学園高校、PL教団を経て1963年秋に阪神に入団。70年には88試合に出場し頭角を表し始めると、翌年よりセカンドのレギュラーとして定着。72年にはリーグ最多となる21個の犠打をマークした、75年に現役を引退。その後は阪神のマネジャー、二軍コーチ、フロント、二軍監督、スカウトを務めた。2008年、福井ミラクルエレファンツの野手コーチに就任。今季より監督としてチームを率いる。


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