FIFAが公表しているデータによれば、今大会における日本のパス成功率は60%で出場32カ国・地域の中で最低だった。つまり10本のうち6本しか通らなかったのだ。ちなみにトップはスペインの80%。翻ってシュートのオンターゲット率(ゴールの枠をとらえた確率)は59%で、これは32カ国・地域の中で最高だった(記録はいずれも準々決勝終了時)。やみくもなプレスを避け、体力を温存した結果、シュートの精度は著しく向上した。
 カメルーン戦直後にも書いたが、サッカーのスタイルにはプロアクティブ(未来予測)型とリアクティブ(現実対応)型の2つがあると考える。岡田ジャパンはリアクティブ型のスタイルでカメルーンを撃破し、勢いに乗った。

 しかし、ずっと将棋でいうところの「穴熊」に固執したわけではない。勝ち点3を取って自信を得た日本は2戦目、3戦目となると堅守速攻も板につき、欧州の大男たちを手玉に取る場面も増えてきた。
 最低のパス成功率でベスト16進出が果たせるのなら、そろそろパスサッカーの呪縛から解き放たれるべきなのか。それでもなおボールポゼッションに重きを置いたプロアクティブ型を志向すべきなのか。

 日本にとっての大きなネックはアジアにおいて堅守速攻を磨こうにも、背水の陣を敷かざるをえないような強国が存在しないことである。研ぎ石がなければ刃は光らない。韓国やオーストラリアが強いとはいっても一方的に蹂躙されるわけではない。
 ここがウルグアイやパラグアイとは決定的に違う。両国がブラジルやアルゼンチンに一矢報いるには堅守速攻にかけるしかない。選択肢のひとつとしてリアクティブなサッカーをしているのではなく、それしか生き残る道がないのだ。究極の“弱者の戦略”である。

 日本に話を戻そう。アジアの庭では強者として我が物顔で振る舞う日本だが、世界に出ると“借りてきた猫”にならざるをえない。この落差を今回は“一夜漬け”で埋めた。それでもここまでできたと考えるべきなのか、それだからここまでしかこられなかったと考えるべきなのか。手にした自信と見えてきた限界。4大会連続出場と国外開催初の決勝トーナメント進出でサッカー新興国から中堅国への仲間入りを果たしたと総括するのは早計だろうか…。

<この原稿は10年7月7日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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