「なんでや?」
 選手たちが野球賭博に関与しているかもしれない。その情報を聞いた時、僕は自分の耳を疑いました。我々が仕事にしている野球、そして目標としているNPBを賭け事の対象にするとは考えもつかなかったからです。ましてや僕たちの給料はファンやスポンサーからいただいているもの。その貴重なお金を賭け事に使うなんて……。日頃から好きな野球で、お金をいただいていることへの感謝を持ってプレーするよう言ってきただけに、信じられない思いでいっぱいでした。
 しかし、選手たちに確かめたところ、悔しいことに、それは本当の話でした。8選手が賭博に関わり、チームを去る結果となったことは、すべて私の監督不行届です。
「責任をとって監督を辞めるべきでは?」
 そう感じている方も読者の中にはいらっしゃるでしょう。でも、僕は残った選手たちに野球を続けさせることが責任の取り方だと考えました。彼らには何の罪もありません。これで野球を続けられなくなってしまっては、「未来ある子供に夢を与える」という、リーグの趣旨からも外れてしまいます。批判はすべて受け止め、またみなさんに認めてもらえるチームをつくる。これが僕に課せられた責務だと今は思っています。

 正直な思いを言わせてもらえば、賭博に関与した選手たちも、しっかり反省して、また野球を続けてほしいです。1年半、または半年間、一緒にいて、彼らもグラウンドでは一生懸命、上を目指して頑張っていました。どの選手も将来が楽しみでした。賭博に手を染めたのは、ちょっとした出来心だったのでしょう。そう信じたいです。今回の一件で、彼らの夢を閉ざしたくはありません。

 ただ、やってしまったことは取り返しがつかないのも事実です。彼らの行為は野球人として許せません。球団経営ももともと苦しかった上に、今回の一件でスポンサーが撤退し、さらに厳しくなりました。残った選手たちには、さまざまな面で苦労をかけています。監督としては本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。賭博に関わった選手には、周囲にこれほど迷惑をかけている現実を知ってほしいと思っています。そして、一層の反省を促したいです。

 今、チームにいる14名の選手たちは、本当によくやっています。「ここで上を目指すんだ」との思いも消えていません。連戦が続くとコマ不足でどうしても、結果は残せませんが、それでも全員が気持ちを切らすことなくゲームに臨めています。特に投手陣は“現役復帰”した石毛博史(元巨人)コーチを入れても現状4人しかいません。どの投手にも先発で長い回を任せざるを得ない状況下で、選手たちの意識、ピッチングがいい方向に変わっているのを感じます。

 特に小園司、遠上賢一の2人は、この1年で大きな成長を遂げています。2人とも独立リーグではクローザー経験者。直球でねじ伏せる投球を身上としてきました。しかし、それだけでは上のレベルで通用しません。投球術を身につけてもらうべく、今季から小園は先発に転向してもらいました。最初は力任せにいって打たれてしまうケースも目立ちましたが、登板を重ねるにつれ、コツを掴んできたようです。うまく力の入れどころと抜きどころを使い分けながら投げられるようになってきました。

「変化球を使うのは逃げることじゃない。変化球で誘うのは、ひとつ間違うと打たれる。そういうコースを突いているんだから、むしろバッターを攻めているんだ」
 彼とは春先からそんな話をしてきました。冷静に打者の様子をうかがいながら、配球を考えられるようになり、今まで以上に投球の幅は広がったのではないでしょうか。「小園さんは今が一番いい」。周囲もそう言っています。何より本人が「もっと早く気づけば、前からいいピッチングができたはず」と明かしているほどです。

 この小園の変化に、遠上は触発されました。彼は当初の構想ではクローザーでしたが、今回の件で投手の頭数が足りなくなり、先発に廻さざるを得なくなっています。そこで小園が実践している頭を使った投球をマネするようになったのです。選手は人から指図された時よりも、自分で気づいて動き始めた時が一番、成長します。まだ先発に不慣れなため、成績は決してよくないものの、方向性は間違っていません。連投や長いイニングを投げて、勢いだけでは抑えられないケースで、どう対処するか。その術をマスターできた時に、遠上はまたレベルが上がるとみています。

 現状は選手不足のため、石毛コーチをはじめ、僕もプレイヤーとして試合に参加しています。先日、打席に立った時には、あとちょっとでホームランという当たりも打ちました。バッティングなら、まだまだ若い選手には負けていません(笑)。現役を離れて10年近くになりますが、「代打オレ」をコールして、お客さんに喜んでいただけるなら、うれしいです。とはいえ、ここはあくまでも選手を育成する場。勝敗にこだわりつつも、若い選手に失敗の中からでも学べるよう気をつけていきます。

 今のところ、僕たちのチームには突出した選手はいません。それだけに、ひとつひとつのプレーを大切にしながら、しっかりとした野球をやっていきたいと考えています。堅い守りから少ないチャンスをモノにする。それこそが大阪球団の長所です。ひたむきなプレーで、お客さんにまた応援したいと思っていただけるよう精一杯頑張ります。どうか1度、球場へ彼らの姿を観に来てください。よろしくお願いします。

 
村上隆行(むらかみ・たかゆき)プロフィール>:大阪ゴールドビリケーンズ監督
1965年8月26日、福岡県出身。大牟田高を経て、84年ドラフト3位で近鉄に入団。2年目でショートのレギュラーをつかみ、打率.274、16本塁打の成績を残す。翌年には22本塁打をマーク。長打力を生かすため外野に転向し、猛牛打線の一翼を担った。01年、西武へ移籍して代打の切り札的存在に。同年限りで引退。解説者生活を経て、09年より大阪の監督に就任。現役時代の通算成績は1380試合、916安打、打率.258、147本塁打、464打点。
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