90年代、日米問わず多くのプロ野球の投手が影響を受けたと言われるピッチングテキストが「ノーラン・ライアンのピッチャーズバイブル」(ベースボール・マガジン社)だ。著者はメジャーリーグ史上最多の7度のノーヒッターを達成したノーラン・ライアンと投手コーチのトム・ハウス。
 レンジャーズのコーチ時代、ハウスが若い投手に指導したのが、“高い位置から倒れ込む”投げ方だ。<高い位置からだと、ボールのリリースポイントが高くなる。(中略)私も若いピッチャーには高い位置から倒れ込む投げ方を勧めている。>このようにライアンはハウス理論を絶賛している。
 こうした記述を受け、「ピッチャーが成功するには背が高くなければならない」という指導者が増えた時期がある。リリースポイントの位置を高く保とうとすれば背が低いよりは高い方が有利なのは自明だ。
 しかし、背丈の高さは成功のための必要条件の一つではあっても十分条件ではない。現に上背はなくてもプロで成功しているピッチャーはたくさんいる。

 その代表格がスワローズの石川雅規だ。彼はかつて身長を「169センチ」と称していたが実際は167.5センチである。中学卒業時、名門・秋田商高への進学を希望したが、中学の監督からは「キミの体のことを考えるとこちらの方が合っている」と軟式野球部入りを勧められたという。それが今では押しも押されもしないスワローズのエースだ。
 一方で185センチの「大型左腕」でありながら、伸び悩んでいる者もいる。名前を出して申し訳ないが、05年の巨人の高校生ドラフト1巡目ルーキー辻内崇伸。MAX156キロのストレートを誇った剛腕はまだ2軍で修行中だ。

 そこで気になるのが春夏連覇を達成した興南のサウスポー・エース島袋洋奨だ。身長は173センチとピッチャーとしては小柄だが、ダイナミックなフォームから投げ下ろすストレートは140キロ台後半、スタミナも充分だ。
 それでも「もう少し背が高かったら…」という声を何人かのスカウトから聞いた。本人は大学に進学し、将来的には指導者になりたいと考えているようだ。それも結構だが、あれだけの逸材だ。プロという最高の舞台で上背への不安説を一蹴してもらいたいとの思いもある。

<この原稿は10年8月25日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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