後期も残すところ、あと約1カ月となりました。群馬ダイヤモンドペガサスは、なんとか上信越地区最下位を脱しましたが、まだまだチームは波に乗り切れていません。これは数字にあらわれない細かいミスが要因です。実は首位を独走した前期もミスはあったのですが、カラバイヨがいたことで勝つことができたため、うまく隠されていたのです。ところが、カラバイヨがいなくなった途端に、表面化してきたというわけです。これが後期、群馬が勝ち星を伸ばすことができない大きな要因です。
 カラバイヨがいたときには、投手陣のマークも彼に集中していたことでしょう。何せ、彼は39試合で52安打、46打点、15本塁打、打率3割5分4厘と驚異的な数字をマークした強打者でしたから、他球団のピッチャーは細心の注意を払っていたと思います。そのため、カラバイヨ以外の選手にはどうしても甘くなってしまうところがありました。しかし、カラバイヨが抜けたことで、彼に集中していたマークが他の打者にいくようになったことも、打線がふるわない要因のひとつになっていると思います。

 技術的にはいいものをもっている選手はたくさんいます。それこそ元NPBの山田憲(東海大浦安高−日本ハム−サウザンリーフ市原)をはじめ、井野口祐介(桐生商高−平成国際大−富山サンダーバーズ)、青木清隆(前橋育英高−大東文化大)、川村修司(帝京高−REVENGE99)、内山勇輝(深谷一高−東京国際大)はNPBにいける、もしくは社会人でもレギュラーをとれるほどの素質をもっています。しかし、まだまだ本気度が足りないのです。もちろん、そのことは選手にも伝えています。「オマエらはそれで本気にNPBに行きたいと思っているのか?」と。

 私は7年間、社会人チームでコーチを務めましたが、そこでは私が言ったことに対してすぐに反応がありました。選手たちに、なんとか応えようとする姿が見受けられたのです。それでも彼らのうち、NPBに行くことができるのはほんのわずかです。独立リーグならなおさら狭き門なのですから、それこそ必死になってやらなければNPBへの道は開かれません。ところが、話をした直後は彼らも理解し、2、3日間はそれこそ必死になってやるのですが、それがなかなか続かないのです。

 例えばキャプテンの青木は、優秀な選手ですが、気持ちにムラがあります。守備でエラーをしたり、凡打したりして調子が悪くなると、考え込んでしまうのです。しかもそのイライラを態度に出してしまいます。もちろん、キャプテンとしての責任を感じてのことでもあると思いますが、それではチームにもいい影響を与えることはできません。そこで前期中盤に一度、「キャプテンのオマエがそんなんでどうするんだ」と注意したことがありました。青木も理解してくれてはいましたが、やはりまだミスをひきずってしまうところがあります。彼はチーム唯一のスイッチヒッター、守備もうまく、チームには欠かせない選手。少しくらいのミスがあっても、簡単にはスタメンから外されることはありません。ですから、自信をもって次にきりかえてくれれば、もっとコンスタントに打てるようになると思いますし、周りを見れるようになるでしょう。そうすれば、チームの雰囲気もまた変わると思うのです。

 メンタル面な部分でいえば、志藤恭太(市川高)も現在、壁にぶつかっている状態です。彼はバッティングがよく、今や中軸を任せられていますが、守備ではまだまだミスが多い。特にスローイングが課題なのですが、投げ方うんぬんではなく、「ミスをしたらどうしよう」という弱い気持ちが腕を振れなくしているのです。それが後期に入ってバッティングにまで影響してきたようです。積極さが見られた前期とは一転、今は思いっきりよくバットを振ることができていません。

 それを如実にあらわしているのが21日の信濃戦。1点リードの8回に彼のエラーで3点を取られて逆転されました。しかし、その最終回にランナー2人を置いて志藤にまわってきたのですが、彼は初球、ど真ん中のストレートに手を出さず、最後は追い込まれてボール球に手を出して三振してしまいました。中軸を担うほどバッティングがいいのですから、もし守備でミスをしたとしても、「ミスは自分のバットで取り返す」くらいの意気込みでいってほしいのですが、志藤は逆に守備のミスをバッターボックスにひきずってしまっているのです。強い気持ちをもって、切り替えができる選手になってほしいと思います。

 志藤だけでなく、今後、チーム全体の課題としては、ファーストストライクを見逃さずに思いっきり振っていくこと。NPBでもコンスタントにヒットを打っている選手は追い込まれる前に、ストライクのボールをどんどん振っていっています。その「振る勇気」を群馬打線にも欲しいところ。ファンの皆さんにも積極的なバッティングをお見せできればと思っています。

新井潔(あらい・きよし)プロフィール>:群馬ダイヤモンドペガサスコーチ
1969年4月11日、群馬県出身。東京農業大二高、本田技研を経て、91年ドラフト4位でヤクルトに入団。96年オフ、横浜へトレード移籍。97年には自己最多の53試合に出場した。2000年オフ、トレードでオリックスへ。02年シーズン限りで現役を引退。翌年、Hondaのコーチに就任し、2年目の04年、都市対抗準優勝に貢献した。09年1月より群馬ダイヤモンドペガサスのベースボールアカデミックコーチとなる。今シーズンは同コーチを兼任しながらペガサスの野手コーチを務める。

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