日本代表の新監督がようやく決まりました。アルベルト・ザッケローニ監督は9月に行われる2試合で指揮を執ることはかなわないそうですが、今回選ばれた23名には新監督へアピールできる場を与えられたわけです。監督が決まらないまま4日の試合を迎えていたら、選手たちにとってどこにモチベーションを持っていけばよいかわからず、とても困難な試合になっていたでしょう。

 今回の代表チームは監督が決定する前に選出された特殊なケースです。ただ、新監督がベンチに入らなくても、合宿のミーティングなどでコンセプトを伝えることはできるはずです。さらに、今回の代表チームはW杯メンバーを中心に構成されています。南アフリカW杯で岡田武史前監督が採用した戦い方は、世界でもある程度通じることを証明できました。今回の試合、特にパラグアイ戦では、南アフリカで表現できたことを再現できるのか。それを確認する絶好の機会になります。

 ザッケローニ監督は「岡田前監督に感謝したい。チームのベースはできている」と語っています。そのスタイルを選手たちがピッチに表現できるか。これが最大の注目ポイントになりそうです。さらにいえば、今回の代表チームは指揮官不在ということで、選手達に自分達の戦い方を表現してほしい。新監督、さらにはサポーターに向けてこれまでの日本サッカーの方向性を示してほしいという意味です。その中で、彼らのプレーに足りないものは何か。スタンドから観戦するザッケローニ監督に抽出してもらって、今後の代表チームに還元していけばいいのです。

 守備面ではある程度の結果を出した日本も、攻撃ではもの足りない部分が多かったですね。高い位置でボールを奪ったとしても、そこからの攻めに迫力がなかった。たしかに本田圭佑のワントップでグループリーグを突破しました。しかしながら、相手陣内で迫力のある攻撃を仕掛けられたわけではありません。4日のパラグアイ戦、7日のグアテマラ戦で本田がどのポジションに入るかはわかりません。ただ、本田がどこに入っても彼の動きに誰かが絡んで動いていかなければ、コンビネーションで崩していかなければパラグアイの堅守を破ることはできません。W杯でグループリーグを突破するだけでなく、決勝トーナメントで少しでも上にいくたけには、やはり攻撃力が不可欠です。仮にボランチよりも後ろで安定した守備網を築けるというならば、攻撃の幅を広げ3トップにするのもいいでしょう。今回の試合はホームでの戦いです。守備偏重にならず、迫力のある攻撃をみせてワンランク上の戦いを大勢のサポーターと新監督の前で披露してほしいものです。

<9月の戦いぶりは、最終順位に大きく影響!?>

 8月の過密日程を消化し、Jリーグではいくつかのクラブで明暗くっきり分かれる結果となりました。連戦をうまく乗り切って上位へと浮上したのが名古屋グランパスとセレッソ大阪。逆に停滞してしまったのは清水エスパルスと鹿島アントラーズです。

 名古屋では、今季から加入した田中マルクス闘莉王の牽引力に驚かされています。彼がいることでセットプレーの得点力が大幅にアップしています。さらに流れの中での得点が増えてくれば、名古屋がこのままトップを走りつづける可能性もあるでしょう。

 毎年のように夏にブレーキがかかる鹿島は、シーズン途中での内田篤人の移籍などがあり、若手の起用がうまくかみあっていないように感じます。昨年の8月は2勝3敗という成績でした。今年はさらに調子を落とし3分け2敗と、勝ち星を挙げることができませんでした。昨シーズンはそれまでの貯金があったため、2位と勝ち点差7でトップをキープしていましたが、今年は逆に首位・名古屋から7差離されての4位。ここ3シーズンでは経験していない厳しい夏を過ごしています。シーズン終盤に向けて若手・ベテランの歯車がかみ合わなければリーグ4連覇へ黄色信号が点滅することになるでしょう。

 優勝争いにも増して中位から下位が混戦模様で、最終節が近づくにつれ、降格争いが熾烈を極めること必至です。ここで大事なのは9月の戦い方です。8月の過密日程が終わり、9月は週1回のリーグ戦に戻ります。もちろんカップ戦のあるクラブもありますが、8月に比べればかなりフレッシュな状態で戦いに臨めます。さらに、国際Aマッチデーの関係で、9月に行われるJリーグは3試合です。ここで安定した戦いが出来たクラブが秋以降に勝ち点を積み重ねることになります。優勝争いも降格争いもヤマはまだ先ですが、上手に秋を乗り切ることで11月から12月にかけての勝負どころで力を発揮できます。9月は嵐の前の静けさという雰囲気もありますが、第22節から24節のJリーグに注目してみてください。

● 大野俊三(おおの・しゅんぞう)<PROFILE>
 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザ(http://business2.plala.or.jp/kheights/)の総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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