現在、運営資金難による経営危機から、来年以降のクラブ存続が危ぶまれている状況にあるJリーグ加盟クラブが存在する。 
 それは「東京ヴェルディ」である。
 前回コラムにて、お伝えしたJ2第20節、愛媛FC対サガン鳥栖。実はこの日、同会場では愛媛FCサポーターたちが、試合の応援以外の活動も並行して行っていた。「40年近くの歴史を持つ日本サッカー界の古豪名門クラブ、東京ヴェルディの喪失を何とか防ぎたい」と「愛媛サポートクラブ」が県内での発起人となり、また愛媛FCサポーター有志が、そのお手伝いとして「東京ヴェルディ存続嘆願署名」を集める活動をニンジニアスタジアムにおいて行っていたのである。
「東京ヴェルディが資金難のため、クラブ消滅の危機にあります! 彼らの存続を嘆願するための署名へご協力下さい!!」
 私も試合開始1時間前から、バックスタンド側C席入場口にて、東京ヴェルディ存続嘆願署名をアピールするプラカードを掲げ、スタジアムへと入場する観客の方々へ向けて、大きな声を発し、署名への協力を訴えた。

 親子連れの来場者が、「何の署名活動だろう?」と不思議そうに、こちらを見つめる。 説明を受け、東京ヴェルディの危機を知り、驚く彼ら。普段から、ホームゲームに足を運ばれる常連の観客の中にも、「愛媛FCのことは良く把握しているが、他のクラブの現状を知らない」という人々が意外と大勢いることが分かった。
 会場では、試合が終了するまで署名活動が行われたが、結果この1日で、約1200名近くの署名を集めることができた。(ご協力いただいた皆様、ありがとうございました)
 
 状況は異なるが、Jリーグでは過去にも「横浜フリューゲルスの消滅」など悲しい歴史があった。全国的な不況の最中、決して繰り返してはならない過ちが、再び起こりうる危険性がある。
「明日は我が身かもしれない……」
 署名活動に参加していたサポーターの仲間が呟いた。
 
 現在の愛媛FC内には様々な問題や課題が山積している。たとえば「ホームゲームでの観客動員数の低迷」が挙げられる。リーグ戦中断明け以降、ワールドカップ効果などもあり、集客数は若干の伸びがあるものの、目標の数字にはまだまだ届いてはいない。
 
 原因としてチームの成績不振を指摘する人々がいる。確かに今シーズン、後発のクラブに上位を明け渡すという屈辱的な状況下にあり、J1昇格を夢見て勝利を期待し、ホームゲームへと来場している観客たちにとっては、辛い成績と言えるのかもしれない。
 この状況に対しては、クラブ経営陣が毎年掲げる目標順位設定に留まらず、J1昇格に向け、ロングスパンでの計画を立案し、しっかりと実行できていれば打開の可能性はあると信じている。また、それらをファンに認識し、理解していただくため、多少の情報公開が必要ではないかと考えるのだ。
 
 一方で、スタジアム設備の老朽化や会場までのアクセスの悪さなど、環境面の不備を指摘する人も少なくはない。
 そんな中、愛媛県にて計画されている「ニンジニアスタジアムの改修工事」だが、内容自体は2017年に開催される「えひめ国体」への間に合わせ的な事業にしか思えない。Jリーグ百年構想の観点からも、愛媛の将来にとって実のある改修とは言えないように感じるのだ。

 NACK5スタジアム大宮やキンチョウスタジアムなど、Jクラブを抱える他の自治体では素晴らしいスタジアムが続々と建設されている中、時代を逆行するような取り組みだけは避けていただきたい。せっかく高額の予算を投入するのだから、未来を見据え、みんなが心から喜べるインフラづくりを改めて考えて欲しいものだ。

 現状に甘んじることなく、クラブ運営の内情を見つめ直し、日々改善に努めなければ、私たち愛媛FCも、決して他人事とは言えない状況に陥るのではないだろうか。
「東京ヴェルディの危機」を目の当たりにし、私たちも将来、悲しい思いをしないように、日頃からクラブの運営や経営にも興味を持ち、応援、支援に励んでいきたいと感じる1日であった。


松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール
 1967年5月14日生まれ、愛媛県松山市出身。
 愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。
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