9月に入り、徳島は引き分けを挟み7連勝。貯金5をつくった前期がそうだったように、投手陣が頑張り、ゲームメイクできれば勝てる。この1年を通じ、徳島のスタイルが着実に浸透してきました。その中で選手も成長し、いいパフォーマンスができています。
 投手陣を引っ張っているのは、2年目の大川学史です。ここまでチームトップの12勝(3敗1S)をあげ、ローテーションの柱になっています。今年の彼は1年目とは違い、積極的に練習するようになりました。やらされるトレーニングではなく、自発的に取り組むことで力がついてきています。特に下半身が強化され、ストレートの球速が増しました。おかげでカットボール、チェンジアップ、フォークといった変化球が生きています。ここまでリーグ最多の5完封。本当にいいピッチングができています。

 さらに上を目指すのであれば、もっと練習を重ね、球速を伸ばすことが必要になるでしょう。180センチ、72キロの体型は埼玉西武の岸孝之に似ていますが、150キロ近い速球を投げ込む彼とは異なり、まだ大川の球速は140キロを超える程度です。おそらく体幹の強さが岸とはまったく違うのでしょう。トレーニングでスピードが出るようになったのですから、まだ伸びしろはあるはずです。25歳の年齢を考えてもドラフト指名を受けるには即戦力としての実力をアピールする必要があります。まずは145キロを超えるボールが投げ込めるよう頑張ってほしいものです。

 もうひとり、ここにきてローテーションで欠かせない存在になっているのが韓国から来たチェ・ヒャンナムです。7月までに9勝をあげていたエースの角野雅俊が故障で離脱した穴をしっかりと埋めています。チェは韓国プロ野球で通算51勝をあげた右腕。今季の途中まではメジャーリーグの3Aでプレー経験もあるピッチャーです。実戦経験から離れていた影響か球速はそれほどではありませんが、キレ、コントロールが素晴らしい。テンポもいいため、相手打者はなかなか自分のタイミングで打てないようです。

 何より39歳のベテランにもかかわらず、人一倍の練習量をこなしています。体のケアも入念に行っており、高いプロ意識を感じさせる選手です。コミュニケーションの壁はあるものの、若手にとってはいい手本になっています。昨年、同じくマイナーで投げていた香川の前川勝彦によると、もっと速いストレートも投げられるとか。登板を重ねて調子がさらに上がっていくのが楽しみです。

 現在、アイランドリーグは前期優勝の香川が後期も首位を走り、マジック3を点灯させています。香川が前後期を制した場合、リーグチャンピオンシップに進出するのは年間勝率2位チームです。現時点での年間2位は高知で36勝26敗10分、勝率.581。徳島は36勝29敗7分の勝率.554でゲーム差にすれば1.5です。高知、徳島とも残り4試合。逆転でチャンピオンシップの出場権を得るには、もうひとつも落としたくない状況です。

 優勝経験のない徳島にとっては初めてとも言えるプレッシャーのかかる展開ですが、むしろ結果はいい方向に出ています。選手たちの気持ちが入っているため、これまで見られなかったような好プレーがどんどん生まれているのです。たとえば20日のホーム最終戦(対愛媛、アグリあなん)。スタンドには1400人を超える皆さんに来ていただきました。「こんなにお客さんが入ってもらえるのは幸せなこと。これは今後の野球のみならず、もし違う道を進んでも、今日はいい経験になる。プレッシャーを楽しもう」。試合前のミーティングでそんな話をすると、本当に選手たちは緊張を楽しみつつ、いい試合をみせてくれました。序盤に先制点をあげて主導権を握ると、投げては先発の大川学史がリードを守って逃げ切り勝ち。愛媛は現在、後期2位で香川を2ゲーム差で追っています。特にこの日はデーゲームで香川が敗れ、愛媛にとっては差を縮めるチャンス。気合の入っていた相手の勢いを止め、望みがつながりました。

 残りは4試合。23日に長崎(佐世保)と対戦した後は24日に高知(高知)との直接対決が待っています。ここは本当の大一番です。その後は24日、25日と逆転優勝を狙う愛媛戦(坊っちゃん)が待っています。いずれにしても投手、野手ともにスクランブル起用で全勝を狙うつもりです。このところはベンチにいても、1球1球、選手と一緒に内野で守っているような気分で試合を見守っています。気づけば、手のひらは汗でびっしょりです。僕自身も指揮官として貴重な体験ができています。

「必ずここへ帰ってきます」
 ホーム最終戦では、そうファンの方にはお約束しました。チャンピオンシップに進出できれば今年、もう一度、徳島で試合ができます。その日が来ることを信じ、精一杯、選手たちと戦ってきます。ビジターゲームで球場に足を運べない方も多いと思いますが、ぜひ、みなさんの想いを僕たちに届けていただければうれしいです。よろしくお願いします。


堀江賢治(ほりえ・けんじ)プロフィール>:徳島インディゴソックス監督
1970年8月8日、広島県出身。広陵高から89年、ドラフト4位で大洋(現横浜)に入団。3年目に1軍昇格を果たし、ショートを中心に61試合に出場する。95年、水尾嘉孝、渡部高史とともに、飯塚富司、伊藤敦規とのトレードでオリックスへ移籍。2軍で首位打者を獲得したが、翌年には高嶋徹とともに大島公一、久保充広とのトレードで近鉄へ。98年限りで引退後、地元で少年野球の指導をしていた。現役時代の通算成績は172試合、打率.250、4本塁打、29打点。09年より徳島の監督に就任。
◎バックナンバーはこちらから