6度、杜の都の夜空に舞った。勝って優勝なら文句なしだったが、そううまくはいかない。それでも残り6試合で3.5ゲーム差を引っくり返しての優勝だから、胴上げの味は格別だったろう。

 福岡ソフトバンクホークスが7年ぶりにリーグ優勝を果たした。監督の秋山幸二は就任2年目で悲願を達成した。
「宙に舞って気持ちよかったけど、ここまで長かった。1試合も気を抜くことなく、勝ちにこだわった野球をしてきた。その積み重ねがこの日。いやぁ疲れた」
 疲れた、という言葉に実感がこもっていた。

「試合前に前もって胃薬を飲むようにしています。選手に準備、準備と言っている手前、こっちも準備をしておかなくちゃね」
 秋山が冗談とも本音ともつかぬ口ぶりでそう話したのは開幕前のことだ。
 無理もない。長きに渡ってチームを牽引してきた小久保裕紀、松中信彦に年齢からくる衰えが見える今、豪快に打ち勝つ野球は望むべくもない。
 ちょっと油断すると寝首をかかれる戦国リーグを制するには、接戦をモノにするしかない。
 勝っても負けても胃のキリキリするようなゲームが続く。なるほど胃薬が欠かせないわけだ。

 選手時代、秋山は通算22年間で10回のリーグ優勝と7回の日本一を経験している。日本一7回のうち6回までは西武時代のものだ。
 日本シリーズMVP2回。1986年の広島とのシリーズでは最終第8戦に同点ホームランを放ち、ホームベース手前でバック宙を披露して話題になった。
 黄金期の西武は本当の意味でのプロ集団だった。1番から9番までやるべきことを知っていた。そうした“大人の野球”を理想としつつも、現在のホークスにそうした力はない。
 秋山は葛藤した。
「本当はやりくりしないですむチームが一番いいんです。選手に“わかってる? はい、わかてるね。はい、どうぞ”というのが理想。でも残念ながら、それはできない。結局はやりくりしながら優勝に近付くしかないでしょうね。それはきつい作業だけどやりきるしかない」

 昨季は7月18日まで首位に立っていたものの、主力に故障が相次ぎ、終わってみれば結局、首位から6.5ゲーム差の3位。クライマックスシリーズ(CS)でも勢いに乗る東北楽天に一蹴された。
 今季はその悔しさを糧にした。2点差以内のゲームで20個の貯金をつくった点にチームの成長を見てとることができる。自慢のリリーフ陣、SBM(摂津正、ブライアン・ファルケンボーグ、馬原孝浩)の奮闘が大きい。まさに“やりくり”の勝利だった。
 ホークスは、ポストシーズンゲームに弱い。04年以降、プレーオフ、CSに5度出場しながら、いずれも日本シリーズ進出を阻まれている。
 秋山は板についてきた“やりくり”で日本一というミッションを“やりきる”つもりだ。

<この原稿は2010年10月17日号『サンデー毎日』に掲載されたものです>

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