朝寝朝酒に加え、朝湯が大好きといえば民謡「会津磐梯山」の歌詞に出てくる小原庄助だ。「それで身上つぶした」というオチがついている。朝湯にはかつて流行した朝シャンなどとは違い、贅沢な時間の流れが感じられる。
 朝湯を趣味にしているかどうかは知らないが、スポーツ界の風呂好きで、真っ先に名前が浮かぶのがサッカー日本代表の遠藤保仁(ガンバ大阪)である。ハーフタイム、他の選手がユニホームを着替えたり慌ただしくしているなか、遠藤はしっかりと湯船に身を沈める。
「夏場は水風呂に近い水温。冬はちょっと温かめの湯に入ります」と遠藤。ただザブンと入るのではなく、彼なりのこだわりがあるようだ。「ハーフタイムは低目の水温。試合後はさらに低目でお願いしています」

 ハーフタイムでは1分くらいしか湯に浸かる時間がない。「シャワーでもよさそうなものだが?」と水を向けると遠藤は首を振った。「(湯船のほうが)リラックスできるんです。僕が風呂から出た時には、もう監督が話していたこともありますけどね(笑)」
 並の心臓ではない。G大阪監督の西野朗はかつて「アイツのすごいところは動じないところ。何を考えているのかわからないところがあるけど常に4手、5手先まで読んでいる」と語り、こう続けた。「ミーティングが始まってもまだ風呂に入っている。マイペースというか絶対に自分のリズムを変えない男だね」

 プロ野球における風呂好きといえばカープの若きエース前田健太か。4年目の今季は最多勝、最優秀防御率、最多奪三振と3つのタイトルを独占しそうだ。
 これはカープの前打撃コーチの小早川毅彦から聞いた話。「カープの1軍の寮は三篠にあるんですが老朽化していて誰も風呂に入らない。皆、シャワーですませる。ところが彼だけは練習後も試合後も湯船にしっかり浸かり、疲れをとっていた。おそらく彼は体のメンテナンスのことを考えてそうしていたと思うんです。成功するのはこういう選手です」

 たかがお風呂というなかれ。心を癒し、体の疲れをとることに加え、彼らは湯船で自らの内面と対話しているのだろう。現代の風呂好きは身上をつぶすどころか、身上を立派に築き上げている。

<この原稿は10年10月6付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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