<(W杯開催国を決める)選挙を巡っては、明確なルールは定められていない。たとえば日本の国政選挙のように街頭演説は何時まで、戸別訪問は家のどの場所まで、と決められているわけではない。要するに、何でもありの世界なのだ。>
 FIFA理事にして日本サッカー協会会長・小倉純二氏が2004年に著した『サッカーの国際政治学』にこんな記述がある。
 まさに「何でもありの世界」が繰り広げられている。
<World Cup votes for sale(ワールドカップの投票が売りに出される)>
 この17日、英サンデータイムズ紙に刺激的な見出しが躍った。同紙の記者が22年W杯開催を目指す米国の交渉代理人を装って投票権を持つ2人のFIFA理事に接触したところ、投票の見返りに巨額の金銭を要求されたのだ。
 2人の理事とはタヒチのレイナルド・テマリィ氏(オセアニア連盟会長)とナイジェリアのアモス・アダム氏(西アフリカ連盟会長)。両氏が投票の見返りに金銭を要求している場面が隠しカメラにしっかりとおさめられていた。

 まずテマリィ氏だが、彼は巧妙だ。スタジアムの建設計画を持ち出し、300万NZドル(約1億8千万円)が必要だと打ち明ける。要するに、それとなく“袖の下”を求めているのだ。
 アダム氏にいたっては身も蓋もない。日本円で約6500万円もの大金を要求し、記者が「(振り込み先は)ナイジェリアのサッカー協会かあなたか?」と問うと「私に直接」と答えたのだ。露骨過ぎて唖然とする。

 五輪の開催都市が100名前後のIOC委員の投票によって決定するのに対し、サッカーW杯の開催国を決めるのはわずか24人のFIFA理事だ。1票が重い。
 しかも選挙は毎回、僅差で決まる。ドイツに決まった06年大会の決選投票でも結果は12対11。わずか1票の差で南アフリカは涙を飲んだ。
 この時、南アを支持すると見られていたニュージーランドのチャールズ・デンプシー理事は双方から激しい投票要請を受け、ノイローゼ気味だったと言われている。結局、彼は投票を棄権した。
 こうした実態をFIFAの本部が知らないはずはない。知っていて知らんぷりを決め込んでいるのだとしたら、事の深刻さは汚職理事の暗躍の比ではない。

<この原稿は10年10月20付『スポーツニッポン』に掲載されています>
◎バックナンバーはこちらから