二宮: 浅見さんの特長として外国人に強い点があげられます。今年の2月まで約2年2カ月間、負けなしの46連勝を記録しました。その要因はどこにあると思いますか?
浅見: 私、結構プレッシャーに強いほうなので……。
二宮: 自分で言っちゃいますか(笑)。
浅見: アハハハ、スミマセン(笑)。やっぱり48キロ級は国内のレベルが高い。日本の中で代表に選ばれて、国際大会に出るまでが大変なんです。逆に代表入りしたからには、みんな国際大会で勝って当たり前。「私だけ負けてたら、絶対代表には選んでもらえない」と、いつも自分にプレッシャーをかけながら国際大会を戦ってます。

二宮: プレッシャーに打ち克つために、何か特別なことは?
浅見: それは特にないんですけど、プレッシャーがかかった試合ほど、練習してきたことが、すごく自信になりますね。今回の世界選手権もそうでしたが、練習は本当に納得いくまでできたと思ってます。

二宮: 今年のルール改正まではレスリングのタックルのように足を攻めてくる外国人も多く、日本人は苦しめられました。その中で連勝が続いたのは地力がある証拠でしょうね。
浅見: 外国人は日本人に両手で組まれるのは嫌がるんです。だから、嫌なことをしようと、しっかり組むことを心がけていました。

二宮: 先程、話に出たように、この階級は谷亮子さんが引退しても、世界のトップクラスが国内にたくさんいます。福見友子選手(了徳寺学園職)に山岸絵美選手(三井住友海上)、近藤香選手(帝京大)……。オリンピックの切符は1枚しかありませんから、これから争いがより熾烈になるでしょうね。
浅見: 福見さんは私が中学生の時に谷さんの国内連勝を止めて憧れていた選手です。世界選手権では勝ちましたが、今、実際に同じ舞台に立ってみても尊敬できる部分がたくさんあります。柔道のスタイルとしては、一発の技で倒すというより連続技で崩してくる。粘り強い選手だなと思います。逆に山岸さんは、とても技がきれる。センスがいい方だなと感じます。

二宮: 今年の1月のワールドマスターズでは福見、山岸両選手を破って優勝しました。ライバルを揃って打ち負かしたことは、ひとつの転機になったのでは?
浅見: はい。いくら国際大会で勝っても、私の評価は国内では3番手のまま。悔しい思いはありましたね。西田先生にも「あの2人に勝たないと、いくら国際大会で勝っても、オマエの位置は変わらない」と言われてきました。だから、どうしても2人に勝ちたかったんです。

二宮: 組み合わせでは2人を撃破しないと、決勝に進めない厳しいゾーンでしたが、逆に自分をアピールするチャンスと考えたわけですね。
浅見: それまではなかなか直接対決の機会がなかったので、この組み合わせはとてもうれしかったですね。負けても評価は変わらないし、勝てば評価が上がる。自分としてはやるしかない。

二宮: その後の選抜体重別でも、もう1回、3人で直接対決する機会に恵まれましたね。福見選手には決勝で敗れてしまいましたが。
浅見: ただ、山岸さんに判定で競り勝てたのは大きかったと思います。マスターズの時は勝ったといっても開始直後の反則勝ちだったので、全然柔道をしていなかった。ちゃんとした試合で勝てたことが、世界選手権の代表入りへ評価していただいたのではないかと感じました。

二宮: 今年で大学生活も終わりですが、ひとり暮らしにはもう慣れましたか?
浅見: はい。料理やお菓子づくりも好きなので、毎日、自分で作ります。一応、得意はオムライスということにしています(笑)。

二宮: 住まいは大学の寮ですか?
浅見: 寮なんですけど、柔道部の寮が人数が増えていっぱいになってしまったので、私は別の寮に入っています。いろんな部活の方がいて、現役復帰した競泳の萩原智子さんも一緒の建物です。一度、帰る方向が同じで「どこ行っているの?」と声をかけられたことがあります。「寮に帰っています。ここですよ」って答えたら、「私もここ」って。あの年齢になって、五輪を目指そうと努力している姿は見習いたいですね。

二宮: 先程、プレッシャーに強いと自己分析していましたが、自分の性格はどう捉えていますか?
浅見: 負けず嫌いですね。そして、すごくマイペースです。よく人からは変わっていると言われます。外国に行っても、みんなが食べられないものでも全然平気です。「味覚障害」って言われています(笑)。

二宮: それはよっぽどですね(笑)。
浅見: イナゴとかカエルとか食べたことがありますよ。この前、ロシアに行った時にはチーズケーキみたいな食べ物が出てきたんです。初日に食べたら、とってもおいしかった。2日目もそれを食べようとしたら、塚田(真希)さんが「これ、マズイよ」と周りの人に言っていました(笑)。私が皿に載せているのを見た途端、「えっ、それ食べるの? 初めて見た」と驚かれましたね。外国に行くと、たいていは食事が合わなくて痩せるんですけど私は痩せない。それが国際試合でプレッシャーを感じない理由かもしれません。

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(第4回につづく)

浅見八瑠奈(あさみ・はるな)プロフィール>
1988年4月12日、愛媛県出身。柔道一家に生まれ、3歳頃から柔道をはじめる。新田高では3年時にベルギー国際で初優勝。山梨学院大に進学後、1年時に全日本ジュニア、講道館杯を制覇。昨年は国際大会5戦ですべて優勝と強さをみせる。今年4月の選抜体重別で2位になり、世界選手権出場が決定。初出場ながら初優勝をおさめた。来春からはコマツに入社予定。組み手は右、得意技は背負い投げ。身長153センチ。









(構成:石田洋之)
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