6年目を迎えた四国・九州アイランドリーグは、選手育成で毎年、着実に成果をあげている。今年は本ドラフトで、これまでで最も多い3選手が指名を受け、育成を含めても史上最多タイの6名がNPB行きの夢を叶えた。今季は福岡に在籍していた千葉ロッテの秋親、カープドミニカアカデミーよりリーグに派遣されていた広島のディオーニ・ソリアーノがそろって1軍で白星をあげるなど、元アイランドリーガーの活躍も増えてきた。過去5年間で20名のNPBプレーヤーをドラフトで輩出してきたリーグから、新たなる扉を開いた選手たちを引き続き紹介する。
(写真:NPBとの交流戦で好投し、評価を上げた巨人育成2位の愛媛・岸)
<悔し涙からのスタート 〜ソフトバンク・安田〜>

 ドラフト会議当日、寮の部屋でひとり泣いた。それはうれし涙ではない。悔し涙だった。ドラフト前、安田圭佑はある球団から「5位、6位あたりで指名したい」との連絡をもらっていた。しかし、いつまで経っても自分の名前は呼ばれない。最後の最後にアイランドリーグから岡賢二郎(愛媛)が横浜から8位指名を受け、全球団の選択が終了した。

「いったい、あの話は何だったんだ?」
 実は安田は別府大4年生で迎えた昨年のドラフトでも同様の経験をしていた。2年連続で裏切られた怒り、悔しさ、悲しみ、むなしさ……。持っていきようのないさまざまな感情が、ただただ目からこぼれ落ちた。

 それゆえに育成1位で指名を受けたとの後輩からの知らせも素直に聞くことはできなかった。
「喜びの感情は沸いてきませんでした。もし、その連絡をくれた球団からの指名だったら入団を断ろうと思っていました」
 釈然としない心を動かしたのは、一本の電話だった。その主は福岡ソフトバンクの川宗則。定岡智秋監督が2軍時代の川を指導していた縁で、1月には宮崎での自主トレにも参加させてもらっていた。

「ソフトバンクに入りたい人間は山ほどおる。オマエは、その代表として選ばれたんだ。本指名でも育成でも関係ない」
 選手会長からのありがたい言葉に、ようやく気持ちが前を向いた。「川さんと同じ舞台に行けるよう頑張ろう。1からやり直そう」。育成指名にもかかわらず、記者会見に大勢の報道陣、関係者が集まってくれたことにも元気づけられた。

 何より川は安田が目標とし、憧れている存在だ。高知での背番号も同じ「52」をつけた。俊足を飛ばし、開幕から走りまくった。「スタートがぶれない。リーグナンバーワンの走塁技術を持っている」とライバルチームの徳島・堀江賢治前監督も認めるほどだった。打撃でも定岡監督から当て逃げするのではなく、しっかり振り抜くように指導を受けた。夏場前までは3割を大きく超えるアベレージを叩きだした。
(写真:徳島・堀江前監督も「NPBの140キロ台後半の速球でも打ち返せるようになった」と成長を認める)

 ただ、以後は手首を痛めた影響もあり、成績が伸び悩んだ。打率.302、46盗塁。出塁の回数が減ったため、目標にしていたリーグ最多盗塁記録(53個)の更新も叶わなかった。
「それにホームラン0本というのも悔いが残ります。パワー不足を痛感しました。小さくても打てる選手にならないと生き残れない」
 NPB入り後の課題も分かっている。

「足や肩はそこそこ通用すると思う。1年間、動ける体をつくってひとまわり大きくなれば支配下登録はもちろん、1軍昇格も見えてくる」
 ダイエー(現ソフトバンク)で2軍監督経験もある定岡監督は太鼓判を押す。尊敬する川の後ろでヤフードームの外野を守る日は、決して遠くはないかもしれない。

<タフなサウスポーへ 〜巨人・岸〜>

 3兄弟の願いがようやく叶った。岸敬祐には2人の兄がいる。一番上の兄・健太郎はアイランドリーグ初年度に、開幕戦で記念すべき白星をあげた左腕だ。2008年からは福岡ソフトバンクで打撃投手を務めている。2番目の兄も右投げのピッチャーだった。NPB選手になることを目指しながら、途中で夢破れた兄の思いも背負って巨人のユニホームを着る。

 関西学院大を経て昨季は関西独立リーグでプレーした。11勝8敗1Sで大阪の前後期制覇に貢献し、年間MVP、最優秀防御率、最多奪三振賞のタイトルを獲得した。今季はアイランドリーグの愛媛へ移籍。だが、ワンランク高いレベルに最初はとまどった。スキを突いて、どんどん盗塁をしかけるスタイルに自分の投球フォームを乱された。「牽制の時に明らかなクセがあった」と対戦相手だった高知の定岡監督は明かす。

 転機になったのはリリーフへの転向だ。「NPBの交流戦で1イニングだけ投げさせると結果を出していた。短いイニングで集中させたほうが力を出せるのかもしれない」。愛媛の沖泰司前監督の決断が結果的には吉と出た。「球速は普通だけどキレがある。変化球も真っすぐと一緒の腕の振りで出てくるので左打者は打ちにくい」(高知・定岡監督)という持ち味がマウンドで十二分に発揮されるようになった。炎天下で行われた8月のフューチャーズ(イースタンリーグ混成チーム)戦では2試合に投げて、いずれも無失点。連投がきくことをスカウト陣に示し、大きなアピールにつながった。

 さらに評価を高めたのがシーズン後にアイランドリーグ選抜の一員として参加したみやざきフェニックス・リーグだ。全13試合中、4連投を含む10試合に登板。「連投で疲れがたまっていてもボールにキレがあるのでNPBの打者相手でも大崩れしない」と選抜チームに帯同した香川・天野浩一コーチも納得の内容をみせた。本人は「だいぶ調子が落ちてきた最終クールの試合が雨で流れた。運もありましたね」と謙遜するが、育成指名を勝ち取るには充分のピッチングだった。

 巨人は今回のドラフトで157キロ右腕の沢村拓一ら7投手を指名した。育成では野手も含めて8選手を指名しており、ここから支配下に昇格するだけでも大変だ。だが、岸には他のルーキー投手にはない特徴がある。それはサウスポーであること。沢村も2位・宮國椋丞(糸満高)もみんな右投げなのだ。そのことは本人もよく理解している。

 どの球団の監督、コーチに聞いても「まじめで、よくトレーニングしている」と語る練習の虫だ。目標とするのは、大学の先輩でもある宮西尚生(北海道日本ハム)。3年連続で50試合以上に登板したタフなリリーバーだ。巨人には育成から這い上がり、押しも押されもせぬ左のセットアッパーに成長した山口鉄也の好例もある。体さえNPB仕様にできれば、巨大戦力の中でキラリと光る存在になるはずだ。

(Vol.3につづく)

(石田洋之)