「ハムユウ」をご存知だろうか。「ハマユウ」じゃないですよ。「ハマコウ」でもない。人並みにケータイなぞでニュースをチェックしていると、最近、しょっちゅう、この言葉を見かける。正確に書くと、下は漢字になっていて「ハム佑」。
「ハム佑」が走ったとか、笑ったとか、酒が苦手だとか。
 要するに、北海道日本ハムに入団した斎藤佑樹投手のことである。いくら字数を節約したいからといっても、「日本ハム斎藤佑」くらい書いてもバチは当たらないと思うのだが……。それにしても、すさまじい人気である。
 ついにはイチロー(マリナーズ)までが、夢の中で対戦したけど、160キロ出ていて打てなかった、とおっしゃったとか。いやはや。
 何も、嫌味を言っているのではない。斎藤のようなスターが出現することは、日本野球にとって、素晴らしいことである。「今のままでは通用しないんじゃないの?」なんて通の意見を述べるムキもあるが、今はむしろ素直に期待して開幕を待ちたい。あえてヘンクツオヤジになる必要はあるまい。
 ただ、おじさんはいつも素直でいるわけではない。
 2010年を振り返り、2011年に思いをいたすとき、一人のサッカー選手の言葉が印象に残る。
「思ってたよりも、なぜか喜べないですね。優勝って国民の前で公言しているんで」
 去年6月25日、サッカー日本代表の本田圭佑の言葉である。ワールドカップ南アフリカ大会でベスト16まで勝ち進み、日本中が祝賀ムードになっていたときの発言である。

 本田が、世界でもトップレベルのサッカー選手であるか否かは、私は知らない。ただ、この性格は好感がもてる。
 全く同感である。ベスト16で、そんなによくやったと言えるのか。なぜベスト8やベスト4でなかったのか、と考えるのがあるべき姿ではあるまいか。これは、ヘンクツとかアマノジャクという問題ではない(どうもこの国では、そういう感想をもたれてしまうようなのだが)。むしろ本質をまっすぐに考えようとする態度というべきである。

 豊田泰光さんは、こう書いておられる。
<結局ね、プロ野球の世界は、表現は悪いけど「小銭欲しさ」に走ってしまったのですよ。(中略)でもね、CSでちょこっとだけ地元ファンに喜んでもらおう、ついでにお金も少し稼ごう、これはあまりにもチープな発想ですよ。>(「ベースボールマガジン」2011年1月10・17日合併号「オレが許さん!」)
 見事な、CS(クライマックスシリーズ)批判である。私も事あるごとに申し上げてきたが、クライマックスシリーズという制度は最終的には日本野球をむしばむ害虫になる。144試合のペナントレースを戦って得た優勝が、事実上ご破算になるような制度でいいわけがない。「チープ」という豊田さんの評は、極めて印象的である。先の本田の言葉とも通底するものがある。本田の言葉も、自分が「チープ」な選手になりたくない、という信念から出たものに違いないから。

 以下、ランダムに話をつなげます。広島カープの前田健太は、この正月に書き初めを求められて、「任」の一字を書いたそうだ。
 これも、いいですね。要するに「責任」がある。「責任をまっとうする」。だから、すべてを「任せてくれ」という意志表示である。
 キャンプ、オープン戦の調整法も自分の流儀でやる。無駄と思える投げ込みはしない。首脳陣のいいなりにはなりませんよ、ということでもあるだろう。前田の場合、今季は当然、昨年の疲れがどこまでとれるかが焦点になる。人生、いつも順風満帆とはかぎらない。疲れが残ったままシーズンに入れば、つまづく可能性もあるだろう。それでも彼は「任せろ」と高らかに宣言する。
 この有言実行ぶりもいい。なぜなら、たんに大口を叩いているだけではないからだ。むしろ投手としての自分の道を、自分で考え、進んでいこうとする宣言に聞こえる。
 ここにも、豊田さんの文章や本田の言葉と相通じるまっすぐさがある、と言っておこう。

 ところで、巨人は早くも、今年のドラフト1位指名を東海大の菅野智之投手と発表した。昨年は、ご存知の通り、沢村拓一(中央大)の一本釣りに成功した。少なくとも昨年のドラフト時点で、先発のNo.1投手は沢村なのに、だ。
 そして、今年のNo.1投手はおそらく菅野だろうと思われる。だとすると、本来ならば、沢村にせよ、菅野にせよ、ドラフトでは複数の球団が競合するのが、自然ではないだろうか。ヘンクツオヤジとしては、そういう感想をもつ。

 それはさておき。
 まずは、斎藤佑樹のような、いわば影を感じさせない天性のスターの出現を喜ぶ。そして、日本野球がシステムとして、まっすぐなものになることを祈り、つたない年頭所感とさせていただきます。

上田哲之(うえだてつゆき)プロフィール
1955年、広島に生まれる。5歳のとき、広島市民球場で見た興津立雄のバッティングフォームに感動して以来の野球ファン。石神井ベースボールクラブ会長兼投手。現在は書籍編集者。
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