石川とわ(日本体育大学ビーチバレー部/愛媛県四国中央市出身)第1回「笑顔弾けるビーチバレーボーラー」
緑に囲まれた神奈川県横浜市青葉区にある日本体育大学健志台キャンパス内に、異質な空間がある。敷地内に海はないが、専用のビーチバレーボールコートが存在する。言うまでもなく日体大のビーチバレーボール部の練習拠点。同大4年の石川とわは、この地で鍛えられ、大学日本一になるまで成長した。
夏を思わせるかのような残暑厳しい9月下旬、このコートを訪ねた。シーズンオフが近付いているためか、ポップな音楽がスピーカーから流れ、和気あいあいとした空気でゲーム形式の練習が行われていた。
通常、日体大では冬から春にかけてペア決めをし、夏の全日本ビーチバレー大学選手権(全日本インカレ)がひとつの目標となる。今年の春、最終学年となった石川とペアを組んだのは3学年下の松崎伊吹だった。石川にとって“集大成”の1年を同期の選手と組むことも頭にあったが、その選手は別の選手とペアになった。松崎は高校3年時に国民体育大会で準優勝している実力者とはいえ、入ってきたばかりの1年生。同期と比べれば過ごしてきた日々の長さが違う。石川も「気を遣わせてしまうと思ったんです」と連係面に不安がないわけではなかった。
一方の松崎は、3学年上の先輩に対し、こんな想いを抱いていた。
「とわさんとは高校時代から対戦したこともあり、自分にないものを持っていたので“いつか組みたい”と思っていました」
彼女の言う「自分にないもの」とは石川の武器である高さとパワーだ。石川本人は「大学生の中では身長が高い方(171cm)。スパイク、ブロックが得意で、スパイクは(ネットから)離れたところからも打てることが強みです。(レシーバーに)正面に入られてもパワーで弾ける」と自負している。この1年、ペアを組んだ松崎も「大学生の中ではトップクラスの攻撃力を持っているので、ペアとして助かりましたし、ブロックも巧いので後ろ(後衛)で守りやすかったです」と口にする。
石川から見た松崎の魅力は「伊吹はとにかくよく動く子でどんな球が来ても追いに行くところ」だという。
「3本目(に返す球)に関して、どんな状況でも相手の嫌なところにしっかり返すところは他の学生よりレベルが高いと感じます。ペアとしてはその時の感情にのまれず冷静に判断することができるのでプレーに波が無く、とても合わせやすかった。先輩相手にも物怖じせず、思ったことはその都度しっかりと伝えてくれていたので作戦も立てやすく試合中も助けられました」
楽しんだ結果の日本一
2対2で行うビーチバレーにおいて、ペアのコンビネーション熟成は必須である。相手が自陣に放り込んできたボールを1人でレシーブ、トス、スパイク(またはショット)を完結することはできない。ポジションやプレーに得手不得手はあるにしても、個の力だけで勝利を得ることはできない。得意なプレーや苦手のプレー、スパイクを打ちやすい高さを理解してこそ最高のデュオになる。今は「合わせやすい」、「守りやすい」と口にする2人だが、ペアを組んだばかりの頃は阿吽の呼吸と言えなかった。
だからこそ石川は松崎にアクションを取った。
「言いたいことを言い合える関係にならないといけないので、練習でコミュニケーションを取るのはもちろんのこと、練習後や休みの日にご飯に誘ったりもしました。伊吹は自分で考えることできる子なので、『思ったことは全部言ってね。それに対して怒ることはないし、いいと思ったら意見は取り入れたいし、必要だから言ってほしい』とも話しました」
その効果は大きかったのだろう。松崎は「とわさんは普段の練習から意見を求めてくれるし、その意見に対して修正してくれたり、『こうしてみよう』と言ってくれるところがあった。それがすごくやりやすくて自分のプレーが出せた」と感謝する。最初は結果が出なかった2人だが、コンビネーションが徐々に高まっていくにつれて部内戦でも勝てるようになっていった。
そうして迎えた全日本インカレ。石川にとっては最後の全日本インカレだったが、松崎にはあえてプレッシャーをかけるようなことはしなかった。
「『後悔はしたくないから、全力で楽しむしかないよね』と2人で話していました」
全力で楽しんだ結果、2人で初の日本一を掴んだったのだった。
彼女の魅力はコート上でのダイナミックなプレーだけではない。試合映像などを観て目立つのが、コート上での弾ける笑顔だ。負けていた試合でも笑顔を見せていた理由を石川はこう語った。
「自分的には試合でピリピリしたくないんです。楽しんでいる時こそ自分はいいプレーができる。どうあがいても技術が試合中に飛躍的に上がるわけではありません。だったら怒ったり、悲しんでいるよりも楽しんでいる方がいい。ミスだけをとらえるのではなく、できていることにフォーカスして全力で楽しんでやろうというスタイルです」
石川の“全力で楽しむ”というスタイルは伝染する。ペアを組んだ松崎がこう証言する。
「とわさんはゲーム中も元気があり、明るい。そうした声掛けにすごく助けられた。私が取った点も1点1点喜んでくれる。一緒にペアを組んでいると、試合を楽しんでいることが伝わってきて、こっちも自然と楽しくプレーができます」
モットーは「常に楽しむ」、そして「やり切る」だ。その彼女がビーチバレーを始めたのは、高校生になってからである。多くのビーチバレーボール選手がそうだったようにインドアのバレーボールと並行して競技を始めたのだった。
(第2回につづく)
<石川とわ(いしかわ・とわ)プロフィール>
2002年8月27日、愛媛県四国中央市生まれ。小学3年でバレーボールを始める。三島高校進学後、ビーチバレーを。高校2年時にマドンナカップ、国民体育大会に出場し、U19日本代表にも選ばれた。日本体育大学進学後、ビーチバレーに専念。大学3年時に1学年上の福田鈴菜と組み、全日本大学ビーチバレーボール選手権大会でベスト4入りを果たす。大学4年時には1年生の松崎伊吹とのペアで関東大学ビーチバレー選手権大会ベスト4入りし、全日本大学ビーチバレー選手権では優勝した。同大会制覇は日体大女子初。身長171cm。右利き。モットーは「常に楽しむ」「やり切る」。
(文・写真/杉浦泰介)