5月中旬に行なわれた宿敵レッドソックスとの3連戦の真っ最中に、ヤンキースを予期せぬ激震が襲った。
 14日の試合前のこと――。打率1割台の不振ゆえに、この日は打順9番に降格されたホルヘ・ポサダの出場が、急きょキャンセルされたのだ。
 当初は「軽い故障か」と問題視されていなかったが、ゲーム中にブライアン・キャッシュマンGMが異例の緊急会見を開き、「不出場はケガが原因ではない」と発表。一部の地元メディアはここですかさず「9番降格に激怒したポサダが欠場を志願した」と報道し、記者席も一時騒然となった。
(写真:ポサダ事件の地元での報道合戦も凄いものがあった)
 試合後にはポサダ本人が報道陣の前に登場。欠場の理由は腰痛だと表向きは語りながら、「チームから尊敬を受けていない。(試合中に会見を開いた)キャッシュマンのやり方も気に入らない」と発言。誇り高き重鎮選手の「造反事件」は、こうして一気に街で最大のニュースとなったのだ。

「このチームは特別なことをやろうとしているのに……。自分がどうこうなんて考えるべきではなかった。私は多くの人間を落胆させてしまった」
 翌日には頭を冷やしたポサダはそう語り、ジョー・ジラルディ監督とキャッシュマンにも謝罪。事件はとりあえず幕を落とした。ただその一方で、今回の一件によって、ヤンキースの行く末に様々な意味で不安を覚えたファンは多かったはずだ。

 今季のヤンキースはレギュラー野手のうち6人、先発ローテーションのうち4人が30歳以上の高齢チーム。特に打線ではポサダに限らず、デレック・ジーター、マーク・テシェイラ、ニック・スィッシャー、アレックス・ロドリゲスといった主力がすべて昨季を下回る打率で低迷している。
 そんな状態ではチームが順調に勝ち続けられるわけもなく、5月11〜16日まで6連敗。16日までの13戦では10敗。そのタイミングで明るみに出たポサダの暴発が、チームと自身の調子が上がらないことへのフラストレーションに端を発したものだったのは明白だろう。
(写真:A・ロッドもここ数年は成績が下降している)

 開幕直後の容易な日程に助けられて稼いだ貯金(オリオールズに5戦全勝(数字はすべて5月18日時点))のおかげで、依然として地区2位は保っている。それでも今後の見通しは決して順風満帆には思えないのが現実。そして衰えが隠せないジーター、ポサダらの起用法に関して、ジラルディ監督はしばらくデリケートな起用法を余儀なくされていくのが濃厚だ。

「年齢を重ねている偉大な選手たちをどう扱って行くか、自分で考え出さなければいけない。マニュアルにすべきものは何もないのだから」
 ジラルディはそう語っていたが、実際に4月を通じて2本しか長打(二塁打2本のみ。本塁打はゼロ)を打てなかったジーターをリードオフマンとして起用し続けることに対し、早くからかなり批判が出ていた。
 他の多くの選手も不調だっただけに、代役不在だったという事情もある。しかしジーターがこのまま3割そこそこの出塁率で低迷するようなら、近未来に何らかの手段を講じなければならなくなるかもしれない。
(写真:このまま不振が続いた場合、ポサダがシーズン中に解雇される可能性も囁かれる)

 ニューヨークの街の象徴でもあるジーターの打順を下げるとなれば、その反響はポサダの時の比ではないはず。思えば昨オフ、ジーターの契約交渉が予想外にこじれた際、キャッシュマンはこんな日が来るのを半ば見越し、「誰であろうと特別扱いはしない」と予防線を敷いているようにも見えた。ただ、たとえそうだとしても、扱いが非常に難しいことに変わりない。

 さらにもう少し先を見据えると、ロドリゲス(あと6年1億4800万ドル(!)の契約を残す)、テシェイラ(同5年1億1250万ドル)、CC.サバシア(同4年9200万ドル)、
AJ.バーネット(同2年3300万ドル)らの処遇も数年後にはかなり微妙になることだろう。
 もっとも、それらの心配はそのときにすればよい。とりあえず今季に関しては、現行ロースターでの優勝争いは少々心許なく思えるだけに、シーズン中の補強策が重要になりそうである。

 打線のテコ入れのために、早い時期に噂の大器ヘスス・モンテロ(今季3Aで打率.317、2本塁打)をメジャー昇格させるか。あるいはそのモンテロを駒に使い、スター選手の獲得を狙うか。早くもジャイアンツのマット・ケイン投手、メッツのカルロス・ベルトラン外野手らがターゲットとして話題を呼んでいる。

 過去の場合、シーズン中のトレードはロースターのチューンナップの意味合いが強いものが多かった。ただ今年に関しては、誰が獲れるかはシーズンの行方を左右しかねない。特に前評判の高かったレッドソックスが予想通り調子を上げてきているだけに、早急な対応を余儀なくされたとしても不思議ではない。
 振り返れば昨オフにクリフ・リー獲得を逃して以降、ヤンキースのフロントは今季中の補強策を睨んで準備してきた印象も残る。来るべき移籍期限までにどんな成果を残せるか、キャッシュマンの腕の見せどころだ。
(写真:41歳にして唯一衰えが見られないマリアーノ・リベラはいつまで投げ続けるのか)

 いずれにしても、ベテランの扱いの難しさが表面化し、なおかつ積極的に補強を進める必要もありそうな2011年は、ヤンキースにとって近年、最大の激動シーズンと成り得る。ファンにとっては気が気ではないだろうが、これでより面白くなったとも言えるだろう。
ポサダの役割はどうなるのか? ジーターの打順は下がるのか? そして今夏が過ぎる頃、ヤンキースはいったいどんなロースターで重要な時期の戦いに挑むことになっているのだろうか?


杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
1975年生、東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、フリーライターに。体当たりの取材と「優しくわかりやすい文章」がモットー。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシング等を題材に執筆活動中。

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