第271回「トライアスロンは団体的スポーツ!?」

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 以前この連載で、「エンデュランススポーツは修行と共通している」(第257回「修行とスポーツ」)と書かせていただいた。1年半ほど前の話だからと、ひっくり返すつもりはないが、トライアスロンは「団体的スポーツ」ではないかという説がある。

 

(写真:トライアスロンはコミュニティが大切で年齢幅も広い)

 もちろんトライアスロンはトップ選手であっても、通常のスタンダードディスタンス(スイム1.5km、バイク40km、ラン10km)で2時間程度、アイアンマン(スイム3.8km、バイク180km、ラン42km)ともなると8時間かかるわけだからどう考えても、究極のエンデュランススポーツである。第257回で書いたように、同じ動きをひたすら繰り返すことが修行時のメンタルに似ていて、脳内では同じような反応が見られていると言われている。そんなスポーツであるトライアスロンがなぜ「団体的スポーツ」との説が出ているのか?

 

 ポイントは「的」にある。団体スポーツとは、ご存知のように団体で力を合わせて戦う競技で、球技などに多く見られる。メンバーの意思疎通や戦略に対する理解の共通認識などが重要で、普段からのコミュニケーションを取っていないと、それを発揮するのは難しい。ただ、超一流になると、サッカーやバレーのように、国内外から招集されたメンバーでも比較的短時間でアジャストできるようになるのはさすがだ。

 

 トライアスロンは、スタートしたらフィニッシュするまで、すべて一人で行わなければならず、他者の援助を受けることを禁じられている。戦略もトラブル対応も自分で淡々とこなしていく個人スポーツである。

 

 その一人で戦い続けるというところが重要なのだ。一人孤独に、自分と向き合い、ある意味、自分と戦うスポーツなので、周囲を走る選手はライバルである以上に、共に戦っている仲間にもなり得る。そう、それぞれが自分と戦っているという感覚があるので、横に走る選手が単なるライバルではなく、むしろ「お前も頑張っているんだな、俺も頑張るからお互い自分に負けないように行こうぜ!」というような心境になるのだ。

 

心の支えになる仲間

 本来は順位やタイムを争っている相手なのに、いつのまにか戦っている対象、目標が変わっているようだ。むしろ、それぞれ自身に負けないように戦っている仲間で、チームメイトのような心境になることも少なくない。

 

 また、レースは一人でも、普段は仲間と繋がっており、一緒に練習したり、連絡を取り合って情報交換するなど、一つのコミュニティになっていることが多い。一般人にはちょっと理解されにくい価値観を、シェアできる仲間との時間が実に大切なのだ。ある調査データでは、トライアスロンを継続できなかった人の多くが、一人でやっていたという。つまり仲間がいないと、競技の継続は難しいとも言える。

 

 確かに練習は一人ですることが多く、レースも孤独だ。でも、だからこそ、価値観を共有できる仲間がいることが、心の支えになる。長年トライアスロンを取り組んでいる僕でさえ、チームメイトの存在は大きい。もし一人で黙々とトレーニングに取り組み、その成果を感じられるような結果が出ても、それをシェアできる仲間がいないなんて、つまらない。普段の活動も、レースの最中も、繋がっているからこその強さのようなものがある。

 

 僕の中の結論として、トライアスロンは一人でするものでなく、仲間とするもの。そんな仲間がいるからこそ、一人で長いレースを戦い抜くことができるのだ。

 まさにこれが「団体的個人スポーツ」という言い方になる所以であるだろう。

 

 世界でも、日本でも数えきれないほどのトライアスロンコミュニティがある。
 トライアスロンを始めた方、始めようと思っている皆さん、ぜひ周りにいる仲間を探してみてください。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール>

 スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。17年7月より東京都議会議員。著書に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)。最新刊は『大切なのは「動く勇気」 トライアスロンから学ぶ快適人生術』 (TWJ books)

>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ

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